キミと重ねるchronicle

なんか↑こういうタイトルのラノベとかありそうだよね。こんばんは、笹塚です。先のnoteではご心配をおかけし、またたくさんのnoterさんに気持ちを寄せていただき、本当にありがとうございました。ですので、最初に書きますね。昨日ですが、おかげさまで夫の手術は無事に成功しました! ただ、術後の経過を今後慎重に見極めていかなければならないこと、もともと彼が持っている障害との兼ね合い(本来、術後に使いたいけど精神科の常時薬との関係で使えない薬があることなど)や手術後の身体面・精神面、両面のフォローを丁寧にしていく必要などがあります。そこは、パートナーである私もまた、彼と一緒に踏ん張るときなのだろうと覚悟を決め、これからはそういった、日常生活において「今までとは違った側面での工夫を作り出し、トライし、そこに楽しみを見出すこと」をふたりで重ねていきたいと思います。今はまだ全然暗中模索ですが、なんとかなるでしょう。いや、なんとかするのだー。

皆さん、ありがとうございました。noteをやっていてよかったと思います、心の底から。

で、ここからは通常運転なテンションの「笹塚的日常」をお届けしたいと思います。見出し機能とか、初めて使ってみたりして。恩返しになるかはわかりませんが、皆さんに少しでも笑顔がお届けできれば、これ幸い。

1.帰ってきた男

2019年5月20日(月)。いよいよこの日が来やがったぜ……とばかり、なんだか朝から口数の少なめだったふたり。天気は曇りのち雨、翌日は大雨になるとの予報が出ていました。うーん、入院予定自体は一泊二日の弾丸なのですが、なんとなくこれは嵐の予感……とか私は勝手にシリアスモードに突入していたのですが、出かけ際に夫が、「動きやすい服装がいいなぁ」と言ったので「好きな服を着れば、少しでもテンションが上がるかもね」と返しました。その結果が以下です。

・上半身:黒いTシャツにフード付きのグレーのパーカー
・下半身:黒いスウェットに青いスニーカー
・所持品:パンパンのボストンバッグとショルダー

……。私は、家を出てもしばらく気持ちが張り詰めていたのですが、最寄りJR駅の近くのペデストリアンデッキで、はたと気づいてしまいました。

彼のこの格好は、なんというか「無実の罪で服役し、ようやく刑期を終えて刑務所を出所し、刑務官に『よく頑張ったな。二度と戻ってくるんじゃねえぞ』と言われ『ありがとうございました……っ!』と涙する、暗めの過去を背負った系の男性(その後に、彼の帰りをずっと待っていた系の健気な女性と再会する)」じゃないかと。そしてそれを率直に彼に伝えると、「設定がチープ」と切り捨てられました。く、悔しい。でも、確かにチープね。

2.メビウスリングの罠

なんとか病院にたどり着き、なんとか入院手続きを済ませました。書類だらけでひーひー言っていたのですが、入院誓約書の署名欄に日付を記入するくだりで、私は恐らく生まれて初めて「令和」と書いたのです。思わず、

「おおっ、これは慣れない!」

と呟いてしまったのですが、受付のお姉さんは優しく、

「ですよねぇ、私もです」

と言ってくれたので、へへへ……と照れ笑いを浮かべた私。結構恥ずかしかったけど、笑えたならそれでいいのです。

その後、病棟へ着いて一息つき、それから担当の看護師さんがやってきました。とても若くて、はつらつとした挨拶が気持ちいい、かわいい女性でした。その看護師さん(Aさんとします)が、入院の間に手首に装着するバーコードつきのリストバンド(これで色々と患者の情報を管理するらしい)を夫に巻いてくれたのですが、「あっ!」とAさんが呟き、夫も「あ……」とこぼしたので、何事かと思って荷物を整頓していた私が顔を上げると。

夫の手首に、ねじれた状態でリストバンドが巻かれていました。

ちなみに、患者が勝手に取り外したりするなどの不正を防ぐために、装着できるチャンスは一回きりなんですね。Aさんが目をぱくちりさせていたので、こんなことで彼女の看護師としてのキャリアに影を落とすのももったいないし(?)、注射や点滴を間違えた訳でもないので(それは困る)、夫がすぐさま、

「バーコードは読み取れるし、問題ないですよ。それになんだか、メビウスの輪みたいで面白いじゃないですか」

とAさんをフォローするように言ったのですが、残念ながらAさんには「メビウスの輪」という単語が通じず、「え、何?」という表情をされたので、夫は「なんでもないです」とだけ付け加えて、そのまま俯いてしまいました。

どんまい!(Aさんがね)

3.なんだ、泣いているのか?

入院手続き自体は午前中だったのですが、手術開始は13:30を予定していました。「13時頃、またお迎えに上がりますね」とAさんは去っていきました。もしかしてこれは、12:45から放送される「なつぞら」を観られるのでは?(先週分は結局、新テレビで20分の総集編を観たのですが、それだけでもめっちゃ泣きました。リアルタイムで観られなかったのが本当に悔しいです)と気づいた私たちは、手術の準備を素早く済ませると、12:45にチャンネルをしっかりと合わせて、面会者用のソファに並んで座り、なんとか放送を観ることができました。「なつぞら」をずっと観ている方にはわかってもらえると思うのですが、今週の月曜日は主人公がいよいよ北海道から旅立つ大事な回で、終盤で主人公との別れに育ての祖父が人知れずむせび泣くシーンがあったのですが、そこで二人とも涙腺崩壊でした。じいちゃんの気持ちを考えるともう、切なさが切なくてああもう切なすぎだろ! ということで、二人してぐずぐずと涙を流しているところへ、13時になったのでAさんが迎えに来て。

……なんだ、泣いているのか?

と完全に誤解をしたAさん(これはやむをえない)は、精一杯はじけるような笑顔を私たちに提供し、

「大丈夫です! 私たちも全力を尽くします!」。

えっと、違うんだ。これはだいぶ違うんです……とは言えず、「ありがとうございまずぅ……」と、鼻をずびずびとかむしかできなかったふたり。いざ、誤解されたまま手術室へ!

4.拒絶されし音楽

てっきり私は、上方に「手 術 中」と赤く点灯した廊下(薄暗いイメージ)に設えられた長椅子の上で手術の成功を祈りながらじっと待つものとばかり思っていたのですが、手術室までのルートも、手術室に続く部屋も拍子抜けするほど明るくて、手術室に入っていく夫が「じゃー、ちょっと行ってくるわー」といつも通りに飄々と言ってくれたので、ここで私の緊張の糸は少しほぐれました。しかも「ご家族は病室で待っててくださいね」と医師に言われたので、そういうものなのかーと思いつつ、一人で病室に戻りました。ですので、ここから先の「4」のエピソードは夫からの伝聞です。

手術室はテレビドラマなどでよくあるあの「切迫した感じ」はなく、患者を少しでもリラックスさせるために(夫の手術は局所麻酔だったのです)、好きな音楽をかけてくれるのだそうです。アレクサが置いてあって、医師が話しかけると応じてくれるそうな。それで、夫はこの前も六本木までライブに参戦したくらいに好きな筋肉少女帯をリクエストしたそうです。ところが、医師が「アレクサ、筋肉少女帯の曲をかけて」と言ったところ、「お探しの曲は見つかりませんでした」と返されたとか。

そう、彼らはアレクサに拒絶されたのです。

そこで医師が「すみません、ないみたいです。次に聞きたい曲は誰ですか?」と訊いてくれたので、夫は少し考えたのちに「オフコースと小田和正が好きです」と答えたそうな(振れ幅がひどい)。で、それはアレクサのお気に召したそうで、それがランダム再生で選曲され、手術はようやく始まりました。

小田和正のクリアトーンボイスが流れる中、麻酔針だのメスだのが夫が侵襲したわけですが、いざ執刀という場面になって、小田さんの声で「もう 終わりだね……」とか「さよなら さよなら さよなら~あぁ~♪」とか流れたのはなかなか、不吉だったなぁと本人はのちに笑顔で振り返っています(伝え聞いた私がびびった)。

5.野獣の瞳

数時間後、手術が無事に終わり、夫が病室に戻ってきました。その間、私は文学フリマでゲットした本を読んだり、帰ったらnote(この記事です)に書くネタを持参したメモ帳に書き留めて蓄積したり、病室からは東武線が走っているのが見えたので、普段あまり見られない路線の車体が見られたことで気持ちを落ち着けたり(鉄道が好きなことは、こういう時にいい作用として活きるね)していました。

その日の夜に私が使う予定のベッド代わりのソファがあったのですが(「なつぞら」を二人で観て号泣していた事件現場)、それを何気なくいじっていたら、なんと一部がびょーんと延伸して、ソファについていたクッションを外していい感じに配置すると、なんと立派なベッドに変身したのです。す、すごい機能的! あ、でもこれ、私が気づかなかったらどうしたんだろう……まあ、自力で発見したところに価値があるんだろうな、と思い直したりして。

夫は局所とはいえ麻酔が体に回っていたため、意識は朦朧としていました。酸素マスクとか着けちゃって、点滴に繋がれちゃって、もういかにも「ザ・病人」という体で(いや、病人なんだけどさ)。その姿を見るのがちょっと辛くて、でも目を逸らすのは絶対に違うと思ったので、私が懸命に夫を見つめていたら、うっすらと目を開けた夫が一言、

「心琴……睨まないで……怖い……」。

がぁぁぁん! なんかごめん!!

まぁでも、無事に帰ってきてくれたので一安心、いや百安心くらいしました。それで、安心したら途端に空腹を自覚する安定のクオリティで、そういえば昼食を摂っていなかったことを思い出したので、病院の売店で午前中に買っておいたクリームパンを頬張りだしました。それからもそもそと、いろいろを食んでいたのですが。

少ししてから、今度は私が強い視線を感じました。

思えば、夫はこの日の手術のために朝から絶食状態で、手術後も3時間は絶対安静。水も飲めません。その傍らで、私はやれ「『悪魔のおにぎり』って病院で売ってていいやつかぁ? 悪魔を白衣の天使が買うのかよ」だの「これ面白~い! おいなりさんの中にうずらの卵が入ってる!」だの「ミックスナッツのスムージーまじでおいし~また買お~」だのぶつぶつ言いながら(※笹塚は基本的に独り言が多い、らしい)ほくほく顔で食べていたら、

夫が飢えた野獣の瞳で、こちらを凝視していました。

びびり上がった私(普段、人に対して怒ったり批判したり、そういうネガティブな感情を絶対に向けないだけあって、一線を越えた時の彼は本当に怖い。堕ちたらダメやなつです。そしてたぶん、本人にもその自覚はあると思うの)は、何を思ったか、

「あ、見てこれ! パンとおにぎりとドリンクしか買ってないのに、店員さんがお箸をつけてくれたよ! ウケる~」

「……」(睨む)

「そういえば、さっき来てくれた人生経験豊富そうな看護助手のおばちゃんがね、部屋を掃除してくれた時に『お嬢ちゃん、若いのに大変ね』って話しかけてくれたの。『お嬢ちゃん』だって『お嬢ちゃん』! 嬉しいな~」

「……」(朦朧とする)

その後も、何かを言ってはすべり続ける私。睨んだり意識を失ったりと何かと忙しそうな夫。なんだろう、これがもしシチュエーションコメディだったら、結構、再現の難易度が高いやつだ……。

と、そこへAさんが登場。

「お疲れ様でした! 旦那さん、あと1時間で水分からOKになります。夕飯は常食でお出ししますね。もう少しの辛抱ですからね」。

……天使だ……。Aさん、あなたは夫にとって「この地獄はあと1時間で終わる」ということを教えてくれたという意味でも、私にとって「すべり続ける恐怖から解放してくれた」という意味でも、正真正銘の天使です!

6.二号がいるのかよ

ようやく絶対安静から解放された夫は、夕飯に出された病院食をあっという間に完食しました。「おいしー!」「うまっ!」を連発。「空腹は最高のスパイス」と歌っていたのって、RADWIMPSだったっけ。

機嫌の戻った夫とようやく、のんびりまったりな時間を過ごしました。そこで、今日の手術がうまくいったこと、今後の生活や仕事のこと、いろいろあるとは思うけれど、これからもよろしく、な話をしました。

ああ、場所こそ病室の中でしたが、なんだかふたりの時間を取り戻せた気がして、ふっと気持ちが緩みました。

そうだ、テレビでも観ようか、と珍しく夫。何か観たい番組でもあるの? と訊きましたが、「なんとなく」。まぁ、そういう気分だったんだんだろうね。それで、なんとなく選局した番組(たぶんBSかCS)で、番組のBGMに「ムーンライト伝説」が使われていたのです。おお、これはなかなか懐かしい。私がノリノリで「ごめんね~素直じゃなくって~♪」と歌いだしたところ、夫が「あ、セーラームーンの主題歌だ」と。

「お、知ってんの?」

「もちろん」

「ほほう……では、セーラームーンの中で一番好きなキャラを答えよ。ちなみに私はセーラーウラヌスだ」

「僕は、セーラームーン一号かな」

「昭和の仮面ライダーみたいな表現やめろ」

二号がいるのかよ。

7.通常運転を目指します

夫の入院→手術→退院、という怒涛の二日間でしたが、なんとか乗り越えました。夫は精神障害こそあれ、身体的には病気の部分を除いて極めて健康体らしく(血液検査でいつも褒められるのだそうな)、入院スケジュールも医師が「一泊二日でいけます!」と太鼓判をおしてくれましたが、本当にその通りとなりました。執刀医のK先生、天使のAさん、看護助手のおばちゃんなどなど、ものすごい短期間でしたが、いろいろな人の連携プレーに助けられました。

そして、退院手続きが終わってようやくwi-fi環境に突入し、やっと皆さんからnoteにいただいたコメントを読むことができました。緊張の糸、というか束がバサッと切断されて、皆さんからの励ましの言葉に、私の脆弱な涙腺がもつわけもなく。

だばーっと涙が溢れて、いざ外に出ると、もうものっそい大雨と強風。あー、なんだかこの天候は私の心象風景だわ……。などと思ったりして。

もちろん、まだ安心はできないし、大手を振って「平和だー」と言える状況ではないのですが、それでも、これから先いろいろ待ち構えているにせよ、もう「ふたり」なら大丈夫だよね、という実績をまた一つ、積み上げることができなのかなーと感じています。

今日は、自分の気持ちを整頓するためにこのnoteを書くので精一杯なので、タイムラインには明日以降、顔を出したいと思います。早く通常運転に戻って、創作を楽しんだり、たまに夫婦喧嘩をしたり(仲直りの瞬間が好きだからするのだ)、仕事でうわーっとなったら地元ででうぇーいと息抜きと称してカラオケに行ったり、まだ行ったことのないカフェなどを新規開拓したり、失敗とか恥とか悔しさを味わってもそれをかなり早いスパンで「笑い」に変換できるようなゴキゲンな日々を送りたいです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。ではでは、少し早いですが、おやすみなさい。