セルゲイの遺書

この世界には二通りの人間がいる
星を産む者と星を食む者だ

欄干のない橋のような人生を
それでも懸命に歩き続けた君の
震える背中を遊び半分で押した
白々しい者たちへ
僕が贈るべきものとは何なのか
夜空に星が飾られる夜には
いつも考えていたんだ

(死に場所を探すために彷徨う)なんて
どこでくたばっても地球の上だろ
僕はあらゆる手段でそう伝えたけれど
それは君が生きる言い訳にはならなかった
君の手帳の走り書きにはこうあったね

アリビーナにライカの気持ちはわからない

星に向けてその小さな手を伸ばした君が
そのまま星になった夜すら越えて
のうのうと生存する僕は自分の無力さに
さんざん苛まれ苦しんだけれど
君の決断はどこまでも君のものだから
それをあれこれ知った顔で評したり
ましてや恨んだりなんてしたくない

僕が僕を僕として認証するためだけに
一体どれだけの犠牲が必要だったのか
君を失ってなお全然わからないんだよ
馬鹿だろ
笑ってくれ

「宇宙は際限なく拡大している」
そんな学説すら利用して
弱さや過ちといった紫色だけが
僕を現実世界に引き留めている

僕が希求した完全は
君にとって欠点に過ぎなかった
その事実がもう今は
ひたすらに愛しい

君が見た青は僕の見た青と違うかもしれない
でもね
君が見せた赤は僕の望んだとおりの赤だった

輝きを強制された箱庭の中では
呼吸を乱すことでしか
生存の意思を示せなかったよね

そろそろ僕も踊り出していいと思う
満月まで笑いだしたから

僕がこの万年筆のインクを滑らせて
「星」としたためるたびに
白がひとつ滅んでいくんだ

この日記帳に「星」が殖えて
「星」で白が埋め尽くされたら
めりめりと音を立てて
夜空が割れるんだ
いつか君がその裂け目から
明け透けな笑顔を引っさげて
僕を迎えに来ることはわかっているよ

星を統べる者に落ちぶれた僕が
握り潰したあらゆる紫色が
汎用化されて無難な色彩に化け
この夜空に敷き詰められる

そうして君も僕も白い倫理によって
誰の記憶からもどこの記録からも
まっさらにデリートされるだろう
たぶん、それくらいしかもう
すがれる希望なんてないんだ

思い出がなぜ美化されるのか
考えたことはありますか