愛のみぞおち、青の記憶

君からの手紙を全部焼きつくし残った灰を愛と名付ける

みんなが希求している愛とは、大抵が残滓なのだと思う。本来なら欲求のみで生きられた僕らが愛を求めるようになって、この星はおかしくなった。思い出は青い記憶となり、砂塵のごとく脳裏に貼りつく。再生されるのは「みんな」と同じ欲求で、それがいつからか愛と呼ばれだして、それなしでは生きられないくらいに僕らは脆弱に進化した。繋がりを、絆を、ぬくもりを、いちいち吐き出さないと不安になるのは、全部愛のせいだよ。僕たちの先祖が遺した残酷な仕掛けだ。

愛に急所があるとしたら? それは、明け透けな二人称だろうね。あなた、君、お前、貴様、どれも等しく誰かを刺すだろう。独りなら求めなかった愛が最早、ほの青い牙を剥いてこの星を支配している。愛を殺せるものはどこにもいない。焼かれた写真の端で笑顔を浮かべるあなた、君、お前、貴様。可哀想だと思う。みぞおちを愛で射抜かれて、すでにカラカラに渇いてしまった喉に、懲りずに愛が注がれる。

誰かから、誰かの手で愛は受け継がれてゆく。人は死んだら焼かれて青白い骨になる。誰かの記憶に化ける。それが繰り返されて、何処か薄暗い場所に薄情な花が一輪咲く。それでもいいから、愛してください。