クーベルチュールチョコレート

ガラスのショーケースに丁寧に並べられた綺麗事を、隅から隅まで余すところなくクーベルチュールチョコレートで汚しました。甘ったるいことは今どき、断罪の対象ですか。

(せめて夢くらい見させておやりよ)と三毛猫はあきれ顔です。本当は甘えなんて何の罪にも該当しないからです。流行歌にはありませんでしたか?「半端な願いはこれからの季節、とても腐りやすいから気をつけて」って。

若さゆえの輝きは疎ましくありまた悲しくありました、と騙る老婆のその後を誰も知ろうとしないから、どうしても甘味が必要でした。

(十分に信じさせていただきました)と、溶けたクーベルチュールチョコレートに溺れて楽しそうな御姿は、まるで少女。あるいは、かつてのシクラメン……褒めすぎかしら。

「物語を湿らす舌鋒は誰のものですか?」そんな問いかけは無駄な空白を産みます、もしくは「祈りはそのうち自己完結するから、どうぞ気にしないでくださいますか」って。

さて、何よともあれ春がくたばりつつある皐月の夜には相応しい、老婆の蕩ける凶行=美しかった人がキャンバスに二度と赤と黒しか拡げなかったこと、をや、

こういうのをだね、悲愴と呼ばずしてなんと呼ぶ!

相変わらず大袈裟がよく似合うにゃ、と三毛猫がため息をつきます。老婆はくるくるくるくる回り続けています。ティーカップのアトラクションみたいに。遊園地には瞳が凝固した人々の行列が楽しくなるために必死のようです。現場からは以上です。現実にお返しします。

おかしいな、ハッピーエンドが何処にも落ちていない。

また失敗例が増えたから、大切に試験管に入れておくね。丁寧に並べたら、必ずショーケースに鍵をかけなさい。

それから、もう決して、老婆にクーベルチュールチョコレートは与えないように。