アフタヌーンティー

悲しい時ではなくて
嬉しい時に叫びたい
嫌な時には嫌なんだと
嬉しい時には嬉しいと
心のままにころころと

幼いころなら全身で伝えることができたことを
臆病さの染みた鈍色の瞳が拒絶してしまうから
私はこのごろは鏡を見ることすらできなくなり
また小さなこの両手は傷つける言葉を手繰って
いちいち心を試すようにひりひりと痺れている

一つ覚えるたび一つ失っていった
間違いなくそれが正直な心だった
一つ味わうたび硬縮してしまった
しなやかで素直さを知る心だった

自由でしかなかった心はいつしか
ありのままでいることを許されず
正しく成形されてしまったようで
はみ出して削除された部分こそが
私だったのだと主張をすればただ
(優しい人たちの手によって)
トランキライザーが増えていった
錠剤が文字通り白々しさを伝えた

電車の中で赤ちゃんが心のままに泣いている
それを心のままに泣けない人たちが睨みつけ
スマホに罵詈雑言を書き落とすのが日常なら
それは十分に絶望していい理由になるはずだ

駅前に映えスポットが増えるたびに
路地裏に打ち捨てられるタピオカも
私の虚しさも折り重なっていくので
この街を嫌いになってもいいと思う
見た目がそんなに大事だったらなぜ
そんな目をして笑えるのかが私には
どうしてもどうしても理解できない

生き急ぐことを競い合うJR線のホームで
流行りもしないリュックを背負っていると
それだけで(私だけ)置いて行かれるから
嬉しいなと思ったけれど笑えなかった午後

オスの三毛猫マグとアフタヌーンティーをした
マグの手の届かないスコーンを取り分けてやる
するとマグは私には到底考えが及ばない言葉を
ベルガモットの香りをさせながら教えてくれた

絶望は希望の対義語じゃない
このスコーンみたいに絶望を
分け合うことが希望
なんだよ

にゃーーーーーーーーーーーーーーーーー
それかーーーーーーーーーーーーーーーー
それだわーーーーーーーーーーーーーーー

ぽろぽろ落ちたのはスコーンのかけらだけではなくて
涙が次から次へと躊躇なく膝までこぼれていきました
マグはしれっと大きいほうのスコーンを選んだようで
美味しいを連呼しながらぺろりと私の皿の上の絶望を
平らげてしまったのです――なんということだろう!

電車が大きく揺れて目を覚ますと
自宅の最寄り駅に着いていました
マグは駅前のどこにもいなかったけれど
今もどこかで誰かと絶望を分け合っては
大きいほうのスコーンを選んでいるのかしら
にゃあにゃあと聖賢にそれでいてしたたかに

そう思ったらなぜだが
背すじもしゃんとして
また歩き出したって
また休んでみたって
それは私の自由なんだと
それが私の自由なんだと

失ったかけらを拾い集めることを
マグは決して笑ったりしないから
小さくて丸っこいこの両手でも
分け合えることができるのなら
どうかあなたの絶望を
私に触れさせてほしい