カテゴリー: アリスの栞

「幽霊？　なんの話かな」 そう言ったのは、他ならなぬ中野だ。真弓は「え？」と目をキョトンとさせた。 「あの、例のイケメンさんの件なんですけど……」 「まぁ、こんな古民家じゃ、幽霊の一人や二人、出てもお…

とある雨の夜、営業の終わったカフェの店内の薄明かりの中に、ぼぉっと彰が現れた。 「やぁ、こんばんは」 マグカップを磨きながら中野が挨拶する。だが、彰はそれに応えない。 「どういうつもりだよ」 「何が？…

空腹で目が覚めた。朝食をロクに取っていなかったから無理もない。コーヒーのいい香りが真弓の鼻腔をつく。 「おはよう」 一階から様子を見に来た中野が声をかけた。 「あ、スミマセン、私、つい寝ちゃった」 慌…

真弓は階段を駆け下りると、中野に向かってこう言った。 「bookmakerのCDとかって、ありますか」 中野は背を向けたまま、 「あるよ。少し高いところにあるから、脚立を使わなきゃだけど」 そう返答し…

学生の本分は勉強だというが、授業を受けても、レポートを書いていても、あの日以来、真弓はどこかうわの空で過ごしていた。この日も昼休みに学食でラーメンを食べていたのだが、すっかり麺がのびてしまっている。 …

心底驚いた真弓であったが、彼女は元来、とても素直な性格だ。それを象徴しているのが、次のこの言葉である。 「あぁ、だからか……」 そう、真弓にはすぐ合点がいったらしいのだ。 「え、何が？」 ハルコが不思…

「あの、スミマセン……お客様……その……」 真弓が口ごもっていると、中野は「あーあーあー、」と手をひらひらさせて、 「真弓ちゃん、気にしなくていいよ。よくあることだから」 とフォローに入ってくれた。 …

初出勤をなんとか終えてくたくたになった真弓は、アパートに帰るやいなや、そのままベッドに突っ伏した。 （なんだろ、あの人） 急にいなくなった「イケメン落丁青年」のことだ。カフェでの初バイトは、とても楽し…

東京都の西の隅っこの街のはずれにある、とある本屋。真弓がこの本屋でのアルバイトを決めたのは、今月入学した大学と一人暮らしのアパートのちょうど中間という好立地に加えて、カフェが併設されているからだった。…

「アリスの栞」でのアルバイトが決まった旨を、さっそく真弓は両親に報告した。 「うん、明日から。家賃はカバーできそうだよ。卒業前には海外旅行にも行けるってさ」 電話口の母親は、「それはすごいね」と笑い、…