第二話 心臓の形(二)口笛

彼は機械的な動きで銀のボウルの中のサクランボを一粒ずつ指でつまみ、隣に置かれた白い皿に移し替える。4秒間で一粒移すのが、だいたいの目安だ。呼吸をまったく乱すことなく、しかしどこか切迫した空気を醸し出し…

第一話 心臓の形(一)遺言

……かつて愛した貴方へ。 私には一切の恐れるものがなくなり、失うものを失い果てて、ついに自由から逃れなくなりました。 すなわち、私が残滓であるということを、他でもない私自身が理解してしまい、この薄汚れ…

プロローグ 告白

その夜の南大沢警察署は、悪質な飲酒運転の取り締まり対応に追われたものの、取り立てて大きな事件も起こらずに一日の業務を終えようとしていた。 加えてその年は長梅雨ということもあり、軽微な物損事故を起こす車…