第十章 沈黙の詩

少年は、罪に問われなかった。問えない年齢であったことはもちろんだが、彼には同情が寄せられたのである。
少年は、過日に惨殺された女性の息子だった。
「しょうがない、ですよ」
葉山はそんなことを言った。
「しょうがないですよね」
「……」
「だって、そうじゃないですか。あまりにも可哀そうです。器物損壊だけなら、取り返しがつく」
「……それは、独り言か」
「え?」
「何でもない」
「先輩……」
「器物損壊、だとさ」
「はい」
「取り返しがつくのか」
「え?」
「失われた命が、戻ってくるのか」
「……それは」
「何が、『しょうがない』んだ」
「……いえ……」
「………」

――法が無能ならば、俺がルールになり、無用な悲劇が芽吹く前に摘み取ってしまえばいい。この手にはその力があるのだから。
その名のもとに振りかざせば、どんな凶器も許されるのだ。その名のもとに下せば、どんな裁決も崇められるのだ。その名のもとに在れば、すべてが許されるのだ。人間が世界に縋りつくためのドグマ、あるいは辻褄合わせの理を人は、『正義』と呼ぶ。
……脆い上に、身勝手この上ない。
凶器不明の連続婦女殺人事件が起きたのは、それから数ヶ月後のことである。