リサイクル

あなたが教祖に転職したら
私が信者になってあげるね
そんな冗談をケラケラ放ち
僕を慰めてくれたお母さん

何も信じられないから
信じられるものを自ら
こしらえたいと願った
たったそれだけの為に
舌を売り飛ばしました

そうですか
志望動機は
御立派です

居場所がないなら作ればいいと
あなたのお母さんが始めたのは
おしゃべりとスープのぬくもり
それを分け隔てなく与える部屋
リリアンたくさん編んでくれた
優しさゆえに傷ついた人たちが
どんどん賛同してくれましたね

(あーそれが正しさなのですね、わかります。)

疑う才能を摘み取るのも巧みで
ここにいていいんだって思えて
こんなに満たされる気持ちなら
みんなにもそうなってもらおう
そしたらもう誰も悲しまないし
誰も傷つかないのはいいことだ
頭からつま先まで信じて信じた

もう誰も傷ついて泣かないために
名前という概念の削除を申請して
後日名無しの誰かさんから届いた
茶封筒の宛先部分には「null 殿」
中身は至ってシンプルに一言、
「先ズハ貴殿ノ削除ヲ推奨ス」

代わりに僕は12桁の数字として
あらゆる場所で認識されはじめ
優しさは才能ではなく弱者の盾
思いやりはお為ごかしの代名詞
誠実さではご飯が食べられない
そんなことばかりを教えられて

(だから、なんかもう、どうでもいいやって。)

そうですか
死亡動機は
それですね

ではアンケートはこの辺で終わります
最後にお預かりした動画を再生します
まばたき禁止でご覧になってください

「nullェ……null!
ようやく幸せになったんだねぇ
あなたは本当にまっすぐな子で
上手に卑劣になれなかったから
成績表はいつも黒塗りだったね
卒アルに名前さえ載らなかった
いなかったことにされているよ
何もなかったことになってるよ
null、null!この符号、いささか
連呼しづらい件なんだけど…あ
あと、「おかえりなさい」をね
いつかまた言わせてほしいのよ」

そのうちね、約束はしないけど

(ごめんね、ちゃんと馬鹿になれなくて)

(ごめん)

(許して、そして忘れてください)

余白を許さない世界しか知らないと
どんどん欠けていくだけなのになぁ
かくれんぼをしてたはずなんだけど
気づいたら鬼ごっこになっていたし
最終的には無観客の一人芝居だった
本当に僕は楽しかったですお母さん

たとえ命を命と呼べなくなっても
僕のシナプスは無数のリリアンで
優しく正しく構成されているから
いくら悲しいニュースを聞いても
きちんと笑えるようになりました

ほつれた神経は燃えるゴミの日に
正確に収集されて給食に出される
まるで原材料が愛であるかの如く

「みんな残さず食べましょう」