味蕾

どんなに大切に与えられた名前も
言葉ひとつで饐えてしまうから
私たちはとても絶望しやすく
バランスを取ることを請求されて
結局あっけなく崩れていくのを
誤魔化すのがとても上手な生き物だ

指先が酸っぱくなっていく不愉快な
蝿のぶんぶん呻る私たちの脳天で
お前ばかり楽しそうなのはずるいぞと
100均で買った殺虫を撒き散らす人
またひとつ景色が死んでいくのを
私は薄笑いして見届けていた

優しかった風と鳥と花と
鷹揚を教えた人は去って
奥歯をガチガチ鳴らす
やらしい魚だけ残ってる
都市、それは寂しい合唱
呼吸に方法があるのならすぐ
私の無知蒙昧ぶりを笑ってくれ

ため息の癖を咎めた人の目ん玉に泳ぐ
それはたぶん新種の魚です
名前すら与えられない
だから私は暇つぶしの域を決して出ず
絶望の色を好む太公望になります
怒りと潰れた声帯と不可解さを給餌して
あちらこちらに釣り糸を垂らします

もしかかってくれるのが【貴方】なら
それが私が絶望してもよいという
何よりの証左になるから

(蝿、墜落。冬の曖昧模糊を責めよ!)

もう歌おうかだってそれしか
この身を処刑する手段がないから
lalala……いやgyaだ……?
誰もいないからbyeでも可(蝿、生るる)

【魚】どもよ今すぐに此処で
舌を出してごらんなさい
大切なら名前を呼んでみよ
その舌はいったいぜんたい
何枚重なっているんですか