ご家庭用

曲がりなりにもキマイラの我である。ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持ち、口からは火炎を吐く。人間どもはこぞって我を恐れ、権力者らは報奨金までかけて討伐の対象とした。そう、我は世界の深淵という孤独に、いびつな肢体を預けていたのだ。

——というのは遙か昔の話で、現在、我には「きいちゃん」という名が与えられ、都心から遠く離れた一軒家の敷地内で、3食昼寝つきの生活を送っている。

「ただいまー」

この家に住む沙智が元気よく帰ってくる。ランドセルをリビングに放り投げると、まっすぐに我の小屋へと駆けてくる。

「きいちゃん、今日は算数の宿題だよ。後で手伝ってね」
「……先に済ませたほうがいいぞ」
「まずは遊ぶの!」

気が強いのも、先祖譲りだろう。彼女の祖先は、かつて我の討伐に闇の森までやってきた狩人だった。女の狩人は非常に珍しく、また我の姿を目の当たりにした反応も、群を抜いて奇抜なものだった。

「お前、その体では、なにかと不便だろう」
「……なに?」
「ライオンの頭は無駄に重たかろう。山羊の胴体は鈍臭い。おまけに尻尾の蛇は悪知恵ばかり働かせるに違いない」

我が口から火炎を吐くも、彼女——名をカノエといった——はそれをひらりとかわし、今度は瞳を輝かせた。

「それは、便利だな!」
「どういう意味だ……」
「キマイラ。よく聞いてくれ。この国の支配者たちは、ついに火起こしのための道具にも税をかけるようになった。おんぼろの家じゃ幼い妹たちが、腹を空かせて凍えて待っている。そこでだ」

カノエは、にやりと笑った。

「お前に、名を与える。オレの家族になれ」
「何を言っている!?」
「その炎で、オレたちの村を守ってくれ。その代わりに、オレはお前を狙う奴らからお前を守る。どうだ、悪くない話じゃないか」
「我を愚弄するか」
「違う」

カノエは、はっきりとこう言った。

「お前、オレの家族になれ」

「ねぇ、きいちゃん、これあっためて」
沙智が皿に載った冷えたあんまんを持ってくる。我が炎を一噴きすると、それは程よくホカホカになった。
「はい、半分こ!」
沙智はあんまんを我の口に運んでくれる。代々、カノエの子孫は我の身の回りの世話を疎むことなくこなしてくれる。
沙智が「宿題終わらなーい」とあくびをすると、つられて我も、大きなあくびをした。