花と呼吸あるいは

知らないことが減っていくと
痛み止めを飲んでるみたいに
誤魔化すことが上手になれる
不都合な時は沈黙することが
何よりの特効薬だったりする

輝きを強制されて
笑顔の練習をして
最適解だけ選んで
いつも正解をして
褒められたとして

選択肢を失うためだけに
僕らは賢くなってきたし
互いの違いを許容できず
スーパーマーケットでは
同じ大きさの果実だけが
仲良く並び売られている

考えることをやめたほうが
呼吸は楽なんだろうと思う
長いものに巻かれてやがて
長いものそのものになって
夢から覚めることもせずに

楽をすることと呼吸をすることが
近似値になってしまうとしたなら
僕にはもはや呼吸をすることさえ
承認が必要になってしまったのだ

痛み止めが切れてしまえば
もう一錠飲めばいいだけで
何を犠牲にしたのかなんて
考え至ることもないままに
払ってきた努力を免罪符に
今日も最適解を食んでいる

花たちは正義を知らずとも
あてどない風にそよがれて
凜と咲いているというのに
なぜ人ばかりが喧々囂々と
互いを罵っているのだろう

知らないことが増えていくと
嬉しくなってしまうのはそう
愚かさに比例をして愛しさが
募ってくるからで間違いない

人は辞書から逃げられない
人は意味から逃げられない
人は言葉から逃げられない
わかっているから怖くなる
わかっているから賢くなる
なったつもりで呼吸をする
その呼吸で罵りあい続ける

花を見よ!

沈黙に勝る言葉を私は知らない
知ったところでひけらかさない
小さな窓辺でカーテンを撫でて
味の薄い紅茶などを飲みながら
花の写真を眺める以上に大切な
ことがあっても私には興味ない

ただひとつだけ望むとしたなら
すっかり下手になった呼吸への
承認制度を撤廃してほしいのだ

あるいは
苦しくて
無様でも
構わない
そういう
類の愛を
ください