呼吸

1 かさぶたを剥がし呼吸を止めるときにだけ生まれ変わりを信じる 2 首を振る扇風機のごと拒否権があるのかそうかもう泣きそうだ 3 角砂糖溶けてゆくのを待っているそのあいだにも燃え尽きる星 4 あめ玉を…

1 雨に添う少女の影を庇うため紫陽花たちが深呼吸する 2 人知れず閉じた心を携えてただ梅雨明けを恐れて暮らす 3 怪物に食い破られたワンピース雨がやんでも脱げないでいる 4 雨上がり叫んでいいと許可さ…

初夏

プレリュード移ろいゆくか夏の雲 リグレットつばめよ高く飛んでゆけ 皮膚呼吸フットネイルで思い出す アミュレット摘まれる前に散るかりん アンテナが手折られていま入梅か

待合室

1 剥き出しで手渡しされた診断書の乱れた文字がわたしを騙る 2 看板の「人に癒しを」看破する最近視力の下がったまなこ 3 金魚鉢 待合室の人々は加速度を上げ破滅へ向かう 4 癒す人癒される人それぞれの…

初夏

泣きぬれて色づいてゆく紫陽花よ 虹を待つひとに届くかラブレター 梅雨寒よ寂しさと手を繋ぐ夜 夏の風そろそろ前を向くときか トマトこそ恋をしている子の実り

1 月蝕を隠した雲の優しさに気づいた人からほどかれてゆく 2 あの蝶があなたのような気がしては右から順に手にかけてゆく 3 動かない時計の針に触れているあなたのために水汲みにゆく 4 好きという呪いが…

東京

1 阿佐ヶ谷の次は荻窪 正しさはレールの上の幻想として 2 生き方のハウツー本を手に取って泣けてきたなら間違ってない 3 今踏んだ蟻にも命があったことちゃんと忘れて生きてゆきます 4 線路から飛び立っ…

ソーダ水

1 土曜日は海を見に行く大丈夫大丈夫って波が鳴くから 2 好きなひとのいちばん嫌なところまで好きになるってありなんですか 3 更新が止まったサイトで何年も明滅をする「新着!」の文字 4 ソーダ水に指を…

心優しい獣だけが識る

柔らかな裏切りを 生唇で受け止めて 虚しくなるだけで 上等だって笑えよ 風はまた吹くだろうか 遠ざかる記憶を手繰る 獣に堕ちたあなたの眼 もう一度くださいって 失うごとに欲しがって どこにもきっかけな…