∞×

私ね、あっちで生まれたの。生まれただけでまだ誰も手にかけたことがないのね。だからうまく影を伸ばせないし、助けを乞われたらいくらでもいうことを聞いてしまうの。優しいねって? そんなの褒め言葉にも貶し言葉…

メモリーカード

どこにもないはずの記憶がメモリーカードに保存されており私のいつかの嘆きも怠惰も独りよがりな悲喜劇もすべて残っておりました 誰からも忘れ去られた公園の錆びた遊具たちは互いにへつらうことをせず朽ちるのを黙…

トマト

怒りの正当化事由よりも 大切なものがあるはずで けれどそれらしい論説に いとも容易く踊らされる 耳障りのいい言葉たちは いつも私を騙すけれども 過ちを過ちと認めるのは とてもしなやかなことと 言い聞か…

光の粒

1 私は昔小さな羽虫で あなたのベッドの裏についてた のたうちまわるあなたのため そっそそっそとへばりついてた 不機嫌なあなたの指で 潰されてしまったけれど 2 私は昔生意気なチャトラ猫で あなたの眠…

ざん、

もし明日晴れたとしても いつかの雨を私は忘れない 確かに明けない夜はないけれど 手が小さくてセーハがとれず 容易く絶望した夜のことも 日記には残っているから 正しい紅茶の淹れかたと マイナーコードしか…

翻訳教室

どの辞書にも載らない過分に素敵な翻訳教室、三月分の生徒の皆さんの努力の結晶の発表です。どうぞ拍手を! 「I love you」 ・あなたを愛しています。 ・月が綺麗ですね。 ・月は綺麗ですね。 ・月が…

のようなもの

剥き出しの記憶を眼窩からぶら下げ 気の済むまでぷらぷらさせたならば それが涙になるまで待ってひたすら ごめんなさいをリフレインしようか たくさんの手で解剖された認識が 優しい母の手で丁寧に調理されて …

アパハアパハアナアオセオ

桜の花びら舞う下で「おめでとう」と言われて以来、私は常に桜の散ったあとのことを考えているのです。ちっとも似合わなかった制服をやっと捨てられる、とつぶやいたら少しだけ寂しそうな顔をしたアンパン。それが好…

おんなじ星座

林立の夢を刈り取った手で 優しく微笑むのはやめてよ 背の順が嫌いだったことや 前へ倣えを疑ったことまで よくできましたと言われて あなたは何を私に望んだの 最終バスが去った後で 喪服の女が口笛を吹く …

群れ骨

少し黄ばんだ表面に 容赦なく叩きつける 春の雨は優しくあり 群れ骨群れ骨群れ骨群れ骨 矮小な讃の残渣と赤血球が 反乱を起こした辛辣な春が 今年もやってきたのですね 群れ骨を掬う者も救う者も 其れに巣食…