短歌 メトロノーム

1 伏線の回収業はオプションでどんな帳尻でも合わせます 2 身を守るためにまとった繭なのに暗い冷たい寂しいくさい 3 トラウマが疼いていても言い訳にだけはしないよ 頬に木枯らし 4 たぶんまだ気づかれてない煩悩だネイルオ…

ふたり/中指

雪解けは終わりの合図、春 そしてきみは言うんだ 「はじめまして」って 笑顔が似てきたね、と藍子に言われて以来、ときどき鏡に向かって笑ってみる自分がいる。夫婦は似るものだとよく言われるけれど、私たちも例外ではないようだ。 …

ほどける

窓辺には金木犀の香りまたきみがほどけるきっかけを生む 人の記憶は、匂いと強く繋がっているという。ウェブ記事で読みかじっただけの知識だから、深い理由や正確な仕組みはわからない。けれど、いま私のとなりにいる彼を見れば、そのこ…

まんまる

私は浮かんだことがある 心を逃した先に居た 完全な球体と一緒に 美化されがちな夏アルバムの 読み飛ばされる一ページに 名前を与えられることもなく 極彩色のクレヨンで塗り潰された ちゃちな汚れ 神さまのこと 打ち上げ花火の…

今日の短歌 見殺し

1 考えてしまうここまで生きるためお前わたしは何を見殺しにした 2 気にしない人の噂もゴシップも落ちゆく砂が止められたなら 3 来年も旅行をしようそのために貯金をしなきゃまずは点滴 4 猫は猫スマホを捨てることがもう半身…

今日の短歌 錠剤

1 花束になれない花だけを集めるきみの帰りをベランダで待つ 2 紫陽花が雨を呼ぶ午後 日曜にディミヌエンドのペダルをかけて 3 「ただいま」をふたりの部屋に灯すため星のあかりを連れて帰った 4 錠剤に向ける視線の邪魔をす…

今日の短歌 ポルボロン

1 手放した風船高く消えてゆく傷よ痛みよ光に溶けよ 2 三連休しずしず過ぎるできたての口内炎もちゃんと愛しい 3 愛なんて口走ったらポルボロン奇跡も嘘も必然のうち 4 からっぽの金魚鉢にも茜さす香りの失せたミントガム吐く…

短歌 くらし

1 カーディガン濡らす秋雨改札で二本の傘と待っていたきみ 2 水たまり輪っか浮かんで消えていくのを眺めてるきみを眺める 3 雨のこと悪天候というけれどそれならぼくは悪になりたい 4 ぼくはね、と言いかけたまま沈黙にふたり…

短歌 あひるの玩具/カレイドスコープ

1 叫んでも届かないから沈黙と仲良しになる あひるの玩具 2 覗き込むカレイドスコープの眩しさ失望よりも暇いとまが怖い 3 明日には忘れてしまう中指で押したあひるの玩具の湿度 4 もう二度と出会えない気がしても目が離せな…

短歌 シナプスと猫

1 もう一度絶望したいリスタートしてこそ見える景色が見たい 2 心臓に近づける耳わたしにはわたしの生きる理由しかない 3 遮断機は規則正しく排除する生きる予定の人と猫とを 4 照らされたファストファッションの看板倒れるの…