しゃぼん玉
卯月の手前の日曜日、珍しく雪の積もった私たちの住む街は、少し怖いくらいにしんと静まりかえっていた。マンション四階の窓から外を眺めると、はらはらというよりはぼたぼたと雪が落ちて窓に打ちつけていた。「うわー、季節外れ」私が声をあげると、きみは文…
掌編小説 更新履歴ふたり,精神障害
デコピン
川越まで日帰りで小旅行に行ってきた。自宅から車で一時間半も飛ばせば辿り着ける場所にあるので、思い立って小江戸散策を決めたのだ。昨日でお互い仕事納めだった自分たちへの、ちょっとしたご褒美のつもりだった。川越散策には最高の天候で(少し風は冷たか…
掌編小説 更新履歴ふたり,川越,精神障害
グッバイ2017
2017年が終わる。年の瀬に、実家に帰ってこなくていいと言われた私たちは、二人きりでの年越しを過ごすことになった。年末の買い物を終え、帰り道で私たちはわざと遠回りをして、最寄駅の踏切道の前で立ち止まった。遮断機が下りてきて、けたたましく警告…
掌編小説 更新履歴ふたり,精神障害
つづれ織り
今どき、パソコンはおろかスマートフォンも携帯電話も持ち込み禁止の病棟に、私の大切な人が入院している。彼がいるのは精神科の閉鎖病棟だ。通信機器の禁止は外部の刺激を遮断するためという理由らしいが、本当は病棟の内情を隠したいからではないのか、と疑…
掌編小説 更新履歴恋人,手紙,精神科,精神障害
そうだ、温泉に行こう
悠太の告白に対して、仕事から帰ってきた兄はネクタイを外しながら、少し考える素振りをしたかと思いきや「そうだ、温泉に行こう」と言った。日本人は昔から、温泉で傷や病を癒してきたのだと。しかしながら、悠太の病気にも湯治は効果があるのか、甚だ疑問だ…
掌編小説 更新履歴兄弟,精神科,精神障害
お友達
カーテンでのみ仕切られた部屋で、ある晩、僕に新しいお友達ができた。彼はもじゃもじゃの金髪に赤い鼻、派手な水玉模様のサロペットに虹色のチョッキを着ていた。終始、楽しそうに笑顔を浮かべていた。名前を知らないので、仮に「暗闇ピエロ」と呼ぶことにす…
掌編小説 更新履歴お友達,ピエロ,精神障害