桜が咲いたんでしょう

各駅停車新宿行きが
善悪を轢いてくれたなら——
蝶よ、蛹のまま溶け出でよ
艶めかしく地球へと
四肢を投げ出した女の
あるいは黒猫の
若しかして寂しかったのか

特急新宿行きは
善悪正邪を無視して進む——
雪よ、薄汚れて水になれ
かまびすしく地球へと
脳天を差し出した男の
あるいはゆるキャラの
ああ矢張り寂しかったのか

終点をなくした列車はゆく
線路は何処にも続かない
寂しさをなくした殺人鬼志望はゆく
誰にも手をかけられぬまま
言葉鋭利な刃物をポッケに入れて
鼻唄なんて歌いながら
それは間違いなく子守唄
桜が歌詞に出てくる子守唄
最初に事切れたのは神さま——
鐘を打ち鳴らせ!
静寂は全き敵として沈黙する春を否定せよ!

なんて内心で喚きながら
泣きながらまた笑いながら
鼻唄で子守唄を……

……信じたら救え、、

各駅停車新宿行きに乗って
おびただしい女の迷妄が
おののくべき男の憐憫が
ガタンゴトンと潰れてゆくのを
握りしめた吊り革から感じている

寂しさが臨界点だったとして
ああそうなんだ、なんて
目を細める輩から順に
手にかけるべきでありその際に
用いるのはすべから
言葉のみであるべきだ

桜が咲いたんでしょう
動機なんて
それだけで十分です