監視者

それは、見守りという名の監視ではないだろうか。人籠とでも呼ぶべき部屋の中で、彼はようやく涼を得ている。

「外は暑いよ。とても耐えられない暑さだよ。だから君は、その中で穏やかに過ごすといい。ああ、鍵なら預かっておくよ。君が余計なことを考えないように」

彼は黙って出されたアイスコーヒーにストローをさした。一緒に出されたブルーベリーのジャムをひと舐めして。

「恥をかくことも、気をつかうことも、人目を気にすることもない。それが今の君に必要なことだからね。」

アイスコーヒーにミルクを入れると、白が褐色の中で踊る。それを彼はじっと見ている。やがて一つの色になってゆくそれらを、彼は心底哀れに思うのだ。

彼の居どころにはフリーのWi-Fiが通っているらしかった。けれどそれは彼にとって何の意味もなかった。

渡された手書きのメモには、こう記してあった。
Stay long with good coffee.

それは誰からのSOSだったのだろう。監視者だけが救われる空間で、彼はどこまでも幸せだ。それは断言していい。

壁に掛けられていた絵画のあとが、煙草の煙でくっきりと浮かび上がる。アカシアの蜂蜜を垂らしたようなあられもない空には、人籠がぶら下げられており、時折それに祈りを捧げる人もいて、監視者の目はますますこわばってゆくのだ。

彼に空白の皿が差し出される。彼はそれを手に取ると、ニコリともせずにじっと見つめはじめた。トントンと左足でリズムを取りながら、昔むりやり聴かされた子守唄を思い出しながら。

「自由とは恐ろしいものです。乗りこなすには、白い画用紙にいっとう上手に絵を描かなければならない。光は抑圧を生む。希望は不安を呼ぶ。期待は失望の恐れを想起させる。だから彼は、心ごと己を閉ざす道を選んだのです」

文月の始まりととも蝉が鳴き始めた。そのことを彼は知らない。蝉の隆盛も、夏の流星も、新しいことは何も知らない。それを哀れむのは自由だが、監視者は気づいてしまった。

人籠の中の彼より、死んだ蝉の数を数える自分のほうが哀れなのではないだろうかと。

いや、幸不幸の分水嶺はそんな場所にはないと信じたい。信じれば自由で、自由とは揺るぎない正義だ!

そんなことを本気で考えた監視者もまた、今となっては穏やかな人籠の住人なのだ。考えてもみてほしい、そもそも他人事ではなかったし、この眩しすぎる季節のどこに、正解があるというのだろう。

「正義、正解、正しさ。それらはどれも独善、誤解、虚しさの隣です」

きっと彼はわかっていた、はじめからそんなことは。だから、誰が何と言おうと、彼はまっさらに幸せなのだ。閉ざされた人籠の中では、どこまでも幸せなのだ。

堕ちてゆく過程で監視者は願った。あわよくば彼のように幸せになれますように、と。

Wi-Fiがあれば繋がってしまえる世界において、監視者はやっとなにもかもを手放すことができたのだ。

彼が笑顔で出迎える。

「ようこそ」

監視者ははにかんで、彼の手を取った。七日目の蝉が、コトリと落ちた。