今日の短歌 フォーマルハウト

1 靴下は片方なくすと気づくでしょ素足を寄せるこの音が好き 2 スイッチは軽い気持ちで押しましたまさか全員消えちゃうなんて 3 「愛だよね」確認された瞬間に愛じゃなくなるなら愛じゃない 4 鼻唄は洗濯機にも伝染し土曜の昼…

短歌 誘蛾灯

1 見守っているとあなたは仰るがそれは見張りとどう違うのか 2 パレットに黒と白しかないなんてその身に巡る血を思い出せ 3 素数より美しいものを知らないこの人生は上々である 4 誘蛾灯ぜんぶ折ってもいいですか許可されなく…

今日の短歌 説明責任

1 万華鏡 説明責任から逃れ数字となった人々の夢 2 飼っているインコが死ねと言い出した取り返しっていくらでつくの 3 平準化された笑顔で渡される林檎を嚙る芯はへし折る 4 人の声じゃないといいねあの家はペット禁止のはず…

今日の短歌 アルゴリズム

1 カレー屋の屋号が変わった気がしててチェックのためのバターチキンだ 2 新宿のエスカレーターのくだりに終わりがないと思わなかった 3 各停はだめなわたしをだめなまま古書とカレーの国へ導く 4 踊れないアルゴリズムはリズ…

プロローグ

社会福祉士:国家資格の一つ。身体上もしくは精神上の障害がある人、または環境上の理由によって日常生活を営むのに支障のある人、困難を抱える人を対象とする。福祉に関する相談に応じ、助言や指導をする。さらに、福祉サービスや健康医…

一限目 自転車

「ギリ東京、ほとんど埼玉」というキャッチフレーズですっかりおなじみの街に、私の通う小さな大学がある。学部が社会福祉学部の一つしかない、ユニバーシティではなく、いわゆるカレッジだ。 緑の多いキャンパスは、近所の保育園から園…

二限目 噂

私と彼が付き合っているらしいという噂は、すぐに学内中でささやかれるようになった。噂というのはいつだって、尾ひれをつけて拡散される。私は内心うんざりしながらも、懸命にスルーの姿勢を決め込んでいた。 それでも、おせっかいとい…

五限目 再会

実習も折り返し地点に入り、内容にも日々の日誌書きにもこなれてきた頃のことだ。朝からデイケアの事務室内が緊迫した雰囲気に包まれていた。 実習の指導教官を含めた3名が、なにやら深刻そうに話し合いをしている。 「いや無理ですっ…

六限目 友達

面会室で向かい合って座った。佐宗はにこにこしながら私を見つめている。 「あの……」 私から声をかけると、「なに?」と嬉しそうに佐宗が応答する。「なに?」は私のセリフだ。 「どうしてこんなとこにいるのかって? 気になる? …

七限目 動機

彼のスマートフォンから着電があったのは、アリミと池袋駅前で別れてしばらく経ってからだった。外はだいぶ暗くなっていて、時刻も午後6時半を過ぎていた。 「もしもし」 しかし、期待した声は聞こえてこなかった。電話の主は、やや遠…