晩夏〜初秋

世に響く蝉の声こそ警鐘か ひぐらしよ宛名滲んだ茶封筒 うつせみをしずくといだく野の草よ 薬飲む喉もとの汗ひとすじよ 秋蛍よ月にも太陽にも媚びず

春の五句

芽吹きこそ風が指揮するシンフォニア 口笛の卒業ソング掠れる夜 初蛙目覚めてもまだとぼけ顔 花冷えに歩幅広げて進むみち 言い当てる言葉もなくて猫の恋

初春の三句

陽光に竹がしなって雪どけよ 春の陽にまどろむ猫の大あくび 沈黙が雪どけせかす初デート

冬の五句

セロリまで筋が朝向く食卓よ   染まりゆく名残りの空に手透かして   思い出を指で閉じ込め日記果つ   白鳥よ旅立つ朝の決意こそ   木枯らしが窓たたく夜のオラトリオ

実りの五句

勝ち負けは二の次にして運動会 羽ばたきも鈴の音色よ小鳥来る 秋の蝶うつつと夢幻さすらうか 旅人の終着点か天の川 柘榴割る恋にやぶれた昼下がり

初秋の五句

手かざしてひとり佇む望くだり 赤とんぼ子らの頭上に弧描いて 夜学してペン先夢に近づくか 影ひとつ夜風に揺れるすすきの穂 返せない手紙仕舞って秋風よ

晩夏の五句

ひぐらしに歩を止め祈る友のこえ 受話器から泣き声がして夏の果 はしゃぐ児の影を目で追う夕凪よ 引き出しの出せない文が秋を待つ 天の川いずれだれもがかえる場所

夏の五句

幽霊も踊るしかないフェスの夜 背伸びして後悔ののち夏休み 夕立ののちに手放す執着よ 青嵐それでも笑んでよいか問う 水玉を見つめる瞳もまた玉よ

夏の五句202206(二)

青い舌出し笑いあう夏の宵 梅雨明けよ飛行機雲の伸びる空 道半ば転んでもなお青嵐 玉の汗すべり落ちるかまるい頬 夏の月付箋だらけの文庫本

夏の五句202206(一)

風薫る洗いざらしのワイシャツよ 涼風よつまびくショパン午後三時 隊列を外れ自由を知る蟻よ 五月雨が地を打ち弾む三連符 へいぼんな日々は宝よ麦茶飲む