1 はち切れる寸前の糸携えて一人ぼっちで微笑む真昼 2 屋根裏に取り残された人形が謙虚さを求められてぷっつん 3 サイレンが近づいてくるきみはまだ夢とうつつを彷徨っている 4 糸くずの存在価値はきみだけが傷の深さとともに…

短歌 揺れる

1 揺れている洗濯物を眺めつつ「明日あしたも生きていたいね」ときみ 2 久々に結った髪の毛(少女には戻れないこと承知の上で) 3 春を待つ前髪を切る咳をする優しすぎると苦しくなるね 4 にびいろのぶらんこに乗るそびえたつ…

自転車——輪舞曲にのって

傷つくくらいなら 優しくなんてなくていいよと 伝えてくれた人が 襤褸を纏って笑っている 手垢のついた選民思想を 青い炎で燃やすと 楽譜が生まれる 傷つけるくらいなら 黙っていたほうがいいよと 教えてくれた人が 正気の狭間…

ドーナツ

1 ドーナツはみんなの事実 優しくて甘くてみんな否定できない 2 まなうらにドーナツ浮かべ傷つけた人のことなど思い出してる 3 ドーナツを2つに割ろうつらさとか悲しさがそうあれますように 4 なかんずくドーナツがよい仲直…

1 「空あり」をそらありと読むきみがまた壊れかけてる土曜日の午後 2 ふうん、そう。黙りこむきみが何度も殺した虫を目で追いかける 3 もうじきに空は落ちるわその前にルーズソックス捨てておくわね 4 ピーナツの皮がするりと…

1 サボテンを買ってきました僕たちの家は小さなオアシスでしょう 2 常識という名の棘を引き抜いて血まみれのまま笑いましょうね 3 冬薔薇のあかしろきいろ鮮やかに傷つく人の影だけ綺麗 4 忘れ物ってことにした腕時計つけ直し…

1 気もそぞろなんでしょうねとレンズには何にもなびくことのない鳩 2 バラバラになる自意識!アスファルトを一雨ごとにえぐる徒花 3 原稿を読み上げるひと訥々とそれを見るひと(平和ではない) 4 似たような見た目としゃべり…

冬の五句202201

風花のゆく道照らす破顔こそ 手ぬくめて転居届にかかる雪 山茶花のくれない灯る子の頬よ 陽のあたる縁側に初すずめ来る 鳥影よ初日の入の地平まで

マフラーを編むほどに急く指先よ 初雪が迷いと消える街角よ クリスマスツリー仰いでひとりの夜 ひと切れをわけあう頬の赤らみよ ただいまを待つ父母よ十二月

短歌 鼓笛隊

1 背伸びして一口すするカクテルでちゃんと酔うから馬鹿にしなさい 2 見上げればコールドムーン ラジオから知らない人の結婚報告 3 知らないと知りたくないのあいだには八分休符が群生してる 4 笑い声泣き声悲鳴さまざまの音…