短歌 事態

1 嘘でしょ、のあとに嘘だとわかったら嘘が嘘でよかったと嘘つく 2 バス停で行き先のないバスを待つ隣でオツベルが辞書を引く 3 鳥かごで意味を飼ってはいけないとつぶやいた人ちゃんとほどけた 4 階段を半音ずつ降りてくださ…

短歌 仕組み

1 聞こえないふりを貫け嗤い声はやがて必死な声になるから 2 鉄線の上で身動きしない鳩の代わりに空を汚しにゆこう 3 ハート型の雲よ浮かぶな結局は消えてしまうとばれてしまうよ 4 彼岸との接岸点に立っている優しいひとが見…

短歌 鱗

1 風上にきみがいるなら薔薇だけを選びはだしで走って向かう 2 鮮魚たち値引きシールが光ってる閉店間際のいのちの値段 3 無精卵ずらりと並ぶコーナーの裏で売られる生理用品 4 遺言が暗号で記されており遺族が誰も解けないで…

短歌 翅

1 凪を待つ蝶々みたいに呼吸する 明日いいことありますように 2 死にたさをまだ剥がれないかさぶたの下に生まれる皮膚は知らない 3 きみが今どこで誰と何をしているなんて知らない(西風よ吹け) 4 壊れかけ何もきかせてくれ…

甲子園

球児たち勝ち負け越えよ甲子園 ひざの泥勲章として誇る夏 去る者を称えよここは甲子園 白球が運ぶ真夏の意地と意地 甲子園負けの味こそ財産ぞ

盛夏

蝉時雨どこに終止符置くべきか 祈りの日したたる汗のきらめきよ 後悔をしてこそ響く遠雷ぞ 夢さめて氷水飲む喉もとよ 午睡してバナナひとくち平和の世 手土産のメロン切る母の破顔よ

夏202108(一)

窓際でひとり手遊びレモン水 ラムネこそ恋のはじまり告げる味 サイダーを舐めて慄く三毛猫よ 陽光にゼリーを透かす茶色い目 手つなげばアイスも意地も溶けてゆく

短歌 四月馬鹿

1 四月馬鹿八月もまた騙されて拍手の渦に身を潜ませる 2 どうしたらいいかわからずどうにでもなれと引き金に手をかけた 3 リュックから長ネギがはみ出している彼の日常に差す黒い影 4 特急が見逃してきた過ちをSNSに上げる…

短歌 夜明け

1 日に焼けたポスターの赤誰のせいにもできないニュース速報 2 諍いの声が聞こえる誰のせいだろう夜明けがこんなに遠い 3 論破って名前を犬につけましたどこへ行っても素直な論破 4 ヒンメリの影を指先で追いかけあっひとりか…

夏202107(二)

風鈴を鳴らすそよかぜ捕まえて 髪の毛を束ねて恋よソーダ水 七日目の蝉が喚いて日が暮れて 雷鳴よひととせ待つか想い人 虹を見た午後にとなりで笑うひと