短歌 汗

1 蝉時雨まだ許されていない午後伝う汗まで私を責める 2 わからないことがわかると宝物ひとつ失くした気持ちが実る 3 月まででいいから早く連れてって片道切符で構わないから 4 老いという現実はにび色をしてどこへ行っても視…

短歌 夜

1 何回も同じCMの流れるリビングの隅に浮く金魚たち 2 夏祭りあやまちさえも彩りを増すか夜空の打ち上げ花火 3 真っ白なシューズをおろした夜なのに月が視界に飛び込んでくる 4 叫んだら許されますか良いことと悪いこととが…

小夜風

地球儀を強く抱きしめて 失くした星だけを数えて から笑うあなたのことを 私はもう許せそうにない あなたを許せない私を あなたは許してしまう そうして無難至高にて 風を感じているフリと 生きている真似事とが 上手になってい…

短歌 迷子

1 冷暗所で爪を噛んだおかげで孤独を辞書で引かなくて済む 2 おかしいな規則正しく生きてきた規則正しく生きてきたのに 3 生まれたらカウントダウンがはじまるから泣きながら生まれてきたの 4 だれだれがどこどこでなにをして…

夏202107(一)

金魚玉梳かれる髪のきらめきよ 公園に休符遊ぶか夏祭り 夏の星いのち巡ってまばたきよ 不可逆か月を睨んでアゲハ蝶 笹舟に託す吾子の灯ほたるとぶ 夕立がなぐさめとなる帰り道 三拍子最後の電話精霊馬 怪談か風なく揺れるぶらんこ…

短歌 喪失

1 手鏡に向かい笑顔の練習を毎夜しているひとの屋根裏 2 喪ったひとを捜して鋲を打つ 二度とどこへも行けないように 3 ひろしたちひろしたちひろしのショパンは犬のサイズがやたらとでかい 4 マリー・アントワネットが最期に…

短歌 関係

1 終わったら虹をみようと約束をしたのにすでに虹を見た顔 2 唯一の接点だった虹の根を残らず燃やすために微笑む 3 水たまりアドリブでしか暮らせない僕らを嗤うものだけが棲む 4 関係を問いかける声/続柄欄に無関係とだけ書…

短歌 きみ

1 眠りからさめてまもなく迷子だと気づいたきみの見事なターン 2 風呂上がり湯気たつきみのくちびるがオペラをなぞる夏至の夜更けは 3 きみと手を繋ぐスクランブル 卵は手軽に割れるいのちだ 4 きみの目に映る私が笑っててエ…

短歌 連鎖

1 ホームドアのない通過駅で固める決意ありデートに遅れるひとが増える 2 ホームドアのない駅に街宣車突っ込むみんなのことを守るためだと 3 猿から進化したにせよずいぶんと生きづらい形を選んだものだ 4 神さまがおつくりに…

短歌 呼吸

1 かさぶたを剥がし呼吸を止めるときにだけ生まれ変わりを信じる 2 首を振る扇風機のごと拒否権があるのかそうかもう泣きそうだ 3 角砂糖溶けてゆくのを待っているそのあいだにも燃え尽きる星 4 あめ玉を転がす舌に憧れた夏の…