針と糸とを

テントの中で一番大切なことは 規則正しく生きること 高く飛んだり笑ったり 涙を星と見間違えてはいけない 口を開けていいのは歌うときと 「わかりました」と言うときと 「ごめんなさい」と言うときと みんな大好きと叫ぶときだけ…

ぷっくりとふくれる頬と梅つぼみ 梅の香が考えごとをさえぎる夜 生き急ぐこともあるまい花の兄 目覚ましに梅干しひとつ受験生 手のひらに梅の花びら母わらう ペンネームの由来にした春便り からころと楽しい梅の花の散る 冬の梅こ…

穴埋め問題

たぶん言葉をなくしてしまったんだろう 私はそんな彼を心の底から祝福をしたい 彼の胸元を広くひらいて小さな洋燈や ろうそくのともしびをわけてあげたい 私の愚かさだってそうしたなら 少しはましな遺産になれるんだ 足りないもの…

短歌 きみ

1 寝坊助のきみのほっぺをつねるとき我は稀代の悪者となる 2 もしきみが病める朝にはアラームを止めて私もそっと閉ざそう 3 ワイシャツの襟を直してあげるとき きみは黙ってペンギンになる 4 三日月を美味しそうだというきみ…

踏んで勝つひと

おさげ髪をほどいたあとにほら ソバージュみたいになるでしょ 少しだけ可愛くなれた気がした 鏡の前でそれでも笑えない娘を 何処からやってきた女が突然に 言葉という恐ろしい武器を用い 未来人を自称しながら刺殺した おさげ髪を…

短歌 穴

1 愛がもし海によく似たものならばなるべく広く深くありたい 2 使い捨てカイロに礼を言ってから捨てるあなたのあたたかいクセ 3 錆び付いて誰も乗らないブランコを揺らすみたいな愛の告白 4 秘密などなにひとつない愛しさがあ…

短歌 ぬるい

1 どうしてもあなたのことが許せない なぜ目薬にわさびを混ぜた 2 入口が出口で入口が出口 人は自覚の足りない迷子 3 生ハムが生きたハムだと思ってたあの頃皿はまだ白かった 4 脳内に住むおっさんの口ぐせは「まぁいいじゃ…

モンブラン

あたしやっと ピカピカに光る モンブランを食べた ママが絶対にこれだけは 食べちゃダメだって しつこく言ってたから 食べた あたしがいつか 誰かから「彼女」と呼ばれて 知らない間につけられた名前を 遺棄できる瞬間が来る …

短歌 手

1 言い訳を並べるだけの「すみません」手にかけたくはなかったけれど 2 鉛筆をナイフで削る指先はおそらく誰も傷をつけない 3 レシピには載らないものを手に入れて料理サイトでエラーになった 4 幼い日ごつごつしてた父の手を…

短歌 月

1 きみはまた私がすきだなどという そんなことより月がきれいだ 2 ピアノよりきれいな声で泣けるなら今すぐここで泣かせてあげる 3 春を待つきみのとなりで雪を知る たぶん私の早とちりかな 4 整った食器棚には嘘がある 短…