短歌 凝視

1 だれひとり僕を知らない街にいて「こどく」の意味を僕は知らない 2 輝けと命令するな僕はまだ正しい呼吸もわからないのに 3 夢を見て初めて気づくこともある 今日も明日も燃えるゴミの日 4 カラカラと軋み続ける僕の骨 ど…

短歌 青春

1 輝きを強制される僕たちは合言葉まで上書きされる 2 苦しいと笑ってしまう癖なのに礼賛されて真似までされて 3 風を受け微笑んだこと馬鹿にされいつの間にやら馬鹿にする側 4 真剣な悩みを友に打ち明けた 友であったと誤認…

短歌 赤血球

1 醜さの喩えに使うためだけに私に合鍵なんてくれたの 2 私たち一緒の部屋で呼吸することさえ今や疑っている 3 なにもかもどうでもいいと言うのならその指輪から外してみてよ 4 骨として去っていく者 「思い出」と「平等」の…

短歌 バス停

1 ゆりかごは遠くにあって手を伸ばす理由もなくて夏が去ってく 2 セミたちの声にまぎれてから笑う そんなあなたがやっぱり好きだ 3 木陰から顔を突き出すバス停よ 優しい街に連れてってくれ 4 光から逃れるために明日など何…

角砂糖

どうしても隠しきれない本性を、隠さなくてもいいんだよって、君が目の前で笑っている。許されたいのは、誰も一緒なんだね。 抱きしめたら心の潰れる音がした。こときれゆく君は僕の腕の中で歌を歌う。ずっと聴きたかった子守唄のはずな…

短歌 動機

1 夢を見て夢が破れて夢のなか夢にまでみた夢の世界よ 2 夏空を誰も見上げず笑ってる ノートの隅が日のあたる場所 3 あの夜を小瓶に詰めて朝が来ることを嫌がるまぶたに塗った 4 鐘の音が響いていると君は泣く カーテンだけ…

キラキラ

花壇に仰々しく設えられた花を見て、命がねじ曲げられているのを目の当たりにし、キラキラした街から取り残されたことを改めて思い知る。 人々が口々におめでとうというのを、耳を塞いでやり過ごしていた、夜がもうつらい。耳たぶに冷た…

一等星

うまく叫べなくて うまくないなって 月の上みたいって 指先ばかり雄弁で 招かれた交歓会で たくさんの屍肉を たくさんの人々が 嬉しそうに食んで うまく叫べなくて 刺々しい気持ちに 支配されてしまう 美しいせいだろう (怒…

愛のみぞおち、青の記憶

君からの手紙を全部焼きつくし残った灰を愛と名付ける みんなが希求している愛とは、大抵が残滓なのだと思う。本来なら欲求のみで生きられた僕らが愛を求めるようになって、この星はおかしくなった。思い出は青い記憶となり、砂塵のごと…

スープ

あなたの指先はいつもかすかに震えている 寒さのせいじゃないね 病気のせいでもないね いろいろが溶けたあたたかなスープのせい よくばりな私をどうか叱ってください 見守るばかりが優しさではないように いつか枯れるから花を愛せ…