バイバイ、wi-fi

バスターミナルで誰かを待つふりをして 老婆が巧妙な罠を張る 家路を急ぐ人々が一人残らず 孤独に苛まれますようにと 願いを込めた売り物のマッチ バスターミナルは前しか見えない人だけ 老婆が何度も言問する 家路を急ぐ人々に一…

リジェクション

怒りは今ここに 血まみれのシクラメンとともに 鮮やかに咲いている 真冬のそっけない空に 赤赤と揺れる 恥知らずなシクラメン! 怒りは虚しさと悲しみと手を繋いでおり、同時に去来するが故に非常に厄介である。 身勝手さは刃か、…

冬の街(否定)

「これ、あなたのですか?」 最後のひとかけらを零してしまった 世界に否定された気がした 左手首の傷が疼いた 気の早い風が春の香りを纏っていた 花壇に小指が埋まっていた 見つけたことを後悔した 全部寒さの所為にし…

パンを焼く

春を探しに出かけた 彼は帰ってはこない 湖面に浮かんださかさまのボート 戻らないものというのは悲しいね 白々しく月が湖面を照らしていた 花束を手向けに来る人々は口々に 「綺麗ね」「綺麗ね」「綺麗ね」 まるで冬眠から目覚め…

帰り道

コーヒーはブラックじゃないと飲めなくなった、それを大人になったと暫定的に定義すると、大人になるとは制約が増殖することなのかもしれない。 自由を剥ぎとられて裸になる時、肩書きが意味をなさなくなる時、背伸びをやめた時、大人に…

君が見たまぼろし

悪魔が悪魔でいる限り 天使は天使でいられる 正しさが正しくある限り 狂気の境界線が引かれる (極めて恣意的に) 私はラベリングされる 私に名前が与えられる この世界のどこに、おかしくない奴がいるだろう。正しさはただの多数…

我が青春のカリカチュア

ガラス瓶を割って ノートを引き裂いて 思い出の歌を燃やして それでも無傷の世界を憎んだ 勝手に祝福されている季節が 容易く流す光が乱反射して 有象無象の天使達に歓迎される 僕は命を度外視して 悲しいことがある…

キルティング

夕闇に染まる帰り道で 汚れた十円玉と一緒に 小さな首が落ちていたもので 縫い合わせてみることにした 不器用なもので針で中指を刺してしまい ああ、と言ったきり言葉が出なくなった 窓越しに快速電車を見送ったあとで 誰かの悲鳴…

darling

お願いまだ冥福は祈らずに 薄汚く居残らせておくれよ 今日も懲りずにまた 目を覚ましたんだよ 自問自答は放物線を描いて 私を拒絶し続けるけれども 生きるってさ 生きてくってさ 諸々食ってさ 腐ってくことか それでもやっぱ生…

エコー

累々とした手と手と手と 滔々とした舌に飲まれて ─私はついに溺れました─ 誰も助けてくれなかった 誰もみなスマホを見てた 何が悲しいとは愚問です 見上げた星空の何処にも 約束が見つからなかったのですから 孤独は最早 詠う…