短歌 恋人

1 きみの住む街へと進む各駅に乗り換えるとき降る三連符 2 特別じゃなくてきみにとっての当たり前になりたいだけです 3 秘密って甘いにおいがするんだね「ごめん」だなんて通用しない 4 なにごともなかったみたく読書する文字…

短歌 ドーナツ

1 ドーナツの穴をのぞけばその先にいつも通りに壊れてるきみ 2 食べかけのドーナツでいい差し出せるものはなんでもきみからほしい 3 腕時計だと思ってたよく見たらちっさなオールドファッションじゃないか 4 また一個余ってし…

短歌 わがまま

1 わがままを許してくれた夜のこと永遠にして胸に沈める 2 きみの目のなかの私はなぜかしらいつも寂しい顔をしている 3 トンネルを抜けてはじめて助手席のきみの涙の意味がわかった 4 秋風は出せずじまいのお手紙の正しい弔い…

短歌 唐揚げ

1 花ひらくそのモーションは容赦なくあたしを奪う 誰か助けて 2 優しさが崩れる瞬間(とき)に口走る「ごめんなさい」は脅迫として 3 朽ちた枝さえ必要とする虫がいる 生きるばかりのあたしよりもだ 4 「役に立つ」が礼賛さ…

短歌 蝶々

1 蝶々がひらりひらりと好き・きらい 占うためにむしりむしりと 2 命とは思えないほど美しく命とは思えないほどに儚い飛翔 3 翅があればどこでも行ける気がしてた虫かご埋める元いのちたち 4 薔薇さえも朽ちるを知って手の中…

短歌 星くず

1 (さよならを忘れたみたい)奇遇だね僕もどこかに落としたみたい 2 曇天を裂いたひかりをこめかみにあてて神さまごっこする午後 3 いつの日か同じ家路につけたなら今日の痛みも記念としよう 4 コーヒーに溶けたミルクをかき…

短歌 予報

1 今日はまだ一人でいたい気分なの豪雨予報はいつも外れる 2 予報には誰かが降ると書いてありたぶん私のことなんだろう 3 低気圧ばかりが胸に去来してしととまぶたを濡らしてばかり 4 涙よりしょっぱいものがあるものか人はそ…

短歌 パンタグラフ

1 まばたきを忘れてました目の前できみがアイスのふたを舐めてて 2 線路沿いすすきが群れて揺れておりそろそろ壊れていいと気づく 3 ななめったパンタグラフが通過したあとに居残るあの日のふたり 4 坂道の頂にいてこの手には…

短歌 雨

1 さなぎから孵れなかった者だけが曇天の日に笑ってもいい 2 黄信号でアクセルを踏むきみだからひとのむごさをよく知っている 3 助手席で雨の予報に気がついて横顔見るともう降っていた 4 写真館にて留められた「今」たちが手…

1 骨だけの傘を広げ歩くきみのとなりでちゃんと泣いてる私 2 悪人(とされる)ひとが捕まってそれでも誰も救われぬ街 3 唇がそういう場所と知った日の麦茶の苦さを忘れられない 4 扇風機は居場所をなくしバラバラにされるとこ…