第五話 あの日の砂浜

駅前ロータリーに大きな笹が飾られた。以前は市の事業の一環で設置されていたそうだが、「凪」以後は有志のボランティアたちが遠縁などを頼って、立派な笹を入手しているらしかった。 ボランティアが準備したのは笹だけではない。折り紙…

第四話 傍観者と被害者

朝香は俗に言うスクールカーストで「三軍生徒」だった。中学校に入学して間もなく強固な階層が形成され、一軍という強者の地位を獲得した生徒たちは、あらゆる形態の暴力を好き放題に振るった。無視や揶揄に留まらず、陋劣な行為は加速度…

第三話 ぼんやり

コミュニティカフェ「しえる」の営業終了後、蒼斗は朝香を二階部分の地域活動支援センター「オーブ」へ案内した。朝香は、清掃など閉店後業務を手伝うと申し出たが、蒼斗いわく「まずはこの場所について知ってほしい」とのことだった。 …

第二話 再会

「碑」が生命活動を維持していること、しかも外部刺激に対し生理現象としてだけではなく一定程度の人間的な反応——例えば泣く、怒るなどの感情表現を示すことは、一部の研究者たちによって既に明らかになっている。 しかし、このことは…

第一話 ぐるん

橋本朝香は自宅のドアを開けるのと同時に、大きくため息をついた。返却期限を迎えた本を図書館へ返しに行くという外出の口実があってよかった。自室にいても退屈だし、リビングでは母親が眉間にしわを寄せて、テーブルでうたた寝している…