プロローグ

社会福祉士:国家資格の一つ。身体上もしくは精神上の障害がある人、または環境上の理由によって日常生活を営むのに支障のある人、困難を抱える人を対象とする。福祉に関する相談に応じ、助言や指導をする。さらに、福祉サービスや健康医…

一限目 自転車

「ギリ東京、ほとんど埼玉」というキャッチフレーズですっかりおなじみの街に、私の通う小さな大学がある。学部が社会福祉学部の一つしかない、ユニバーシティではなく、いわゆるカレッジだ。 緑の多いキャンパスは、近所の保育園から園…

二限目 噂

私と彼が付き合っているらしいという噂は、すぐに学内中でささやかれるようになった。噂というのはいつだって、尾ひれをつけて拡散される。私は内心うんざりしながらも、懸命にスルーの姿勢を決め込んでいた。 それでも、おせっかいとい…

五限目 再会

実習も折り返し地点に入り、内容にも日々の日誌書きにもこなれてきた頃のことだ。朝からデイケアの事務室内が緊迫した雰囲気に包まれていた。 実習の指導教官を含めた3名が、なにやら深刻そうに話し合いをしている。 「いや無理ですっ…

六限目 友達

面会室で向かい合って座った。佐宗はにこにこしながら私を見つめている。 「あの……」 私から声をかけると、「なに?」と嬉しそうに佐宗が応答する。「なに?」は私のセリフだ。 「どうしてこんなとこにいるのかって? 気になる? …

七限目 動機

彼のスマートフォンから着電があったのは、アリミと池袋駅前で別れてしばらく経ってからだった。外はだいぶ暗くなっていて、時刻も午後6時半を過ぎていた。 「もしもし」 しかし、期待した声は聞こえてこなかった。電話の主は、やや遠…

八限目 笑いごと

「社会のために役立ちたいです」 「困っている人に手を差し伸べたいです」 こうした志望動機が、自分が役に立つ人間である、自分自身は困っているわけではないといった類の尊大な態度の、他ならない表明である。そのことに気づいている…

エピローグ

夏真っ盛り、大学は夏休みに突入し、私はアルバイトに勤しんでいた。あの日以来、アルバイトが終わると、必ず彼の家に顔を出すようになった。アパートの室内では、牛丼屋を辞めた彼が、緩慢な動作でアルバイト求人誌をめくっている。 私…

四限目 蛙さん

佐宗がぱったりと大学に来なくなったのは、6月に入って間もないころだった。「もたなかったね」「所詮は芸能人のおままごとだったんでしょ」など、好き放題に言われたが、どうもネットニュースに出た記事がきっかけらしかった。 『芸能…

三限目 ぱん

芸能人の自分にまったく興味を示さない彼に、佐宗は却って興味を持ったらしかった。取り巻きたちには目もくれずに、しょっちゅう彼にちょっかいを出していた。 その日は二限が終わって昼食時になるやいなや、大教室の一番後ろを陣取って…