LAST PHRASE 雨がやんだ日
それは付き合い始めて一ヶ月もした頃だっただろうか。初めて二人が結ばれた夜、手を差し伸べてきたのはユイの方からだった。 少しつりあがった目を潤ませて、羞恥心から顔を俯かせ、いつも別の布団に寝ていたユイが、午前2時、隣で眠っ…
それは付き合い始めて一ヶ月もした頃だっただろうか。初めて二人が結ばれた夜、手を差し伸べてきたのはユイの方からだった。 少しつりあがった目を潤ませて、羞恥心から顔を俯かせ、いつも別の布団に寝ていたユイが、午前2時、隣で眠っ…
「征二、やめて、お願い」 ユイは突然の出来事に、ひきつった表情を隠せない。涙すら出ない。 「赤い目だ!」 征二は不可思議なことを、不可解な行動と共に言う。 「お前らの目が赤いのが何よりの証拠じゃないか。俺を騙したな。騙し…
三人はしばらく無言で小さなテーブルを囲んでいた。よく、二人でご飯を食べたテーブル。玄関側に征二、窓側にユイが座ると知らない間に決まっていた。 そして今もその通りに二人は座っているのだが、二人の間に割り入るように俊一が座っ…
母は寒さの抜けきらない部屋の中で、征二から届いた手紙を食い入るように読んでいた。俊一はそんな母の様子を見守っていた。手紙の内容なら、自分が先に確認している。おそらく母が取り乱すようなことはないとは思うのだが。 「……俊一…
結局、何度かけても携帯電話は繋がらない。俊一は一旦家に戻って、荷物を置くことにした。何の連絡も無しに帰りが遅くなるのは母親に悪い。気持ちが急いているせいか、ややスピード違反をしながら道路を走らせた。赤信号につかまる度に、…
人は彼の見る世界を否定する。世の理に適っていない、と糾弾する。彼女もまた同じで、彼女は彼女自身の見る世界に適う「彼」を夢見ていた。それ故に、「神」という偶像を理由として彼女は自分を包む『一つの愛情』を否定した。 世の中の…
ここにはもう二度と来てはいけない気がした。けれど、今日は、いや今日だからこそ、私はここへ来なければいけないのだ。私は誰からも祝福されてはならない。私は罪人だ。 しかし、罪を償う術を私は知らない。もしかしてこうしてもがくこ…
神様、ごめんなさい。私は愛する人を拒絶しました。かの人は救いを求めていました。私を、心から愛してくれました。 しかし、主よ、かの人はあなたを拒絶したのです。私を守るために自らが神になってしまったのです。その妄想は私の心を…
ここ最近では珍しく快晴という言葉がピッタリな日、高橋美和は日勤のために6時に起床し、出勤の準備をした。朝食はいつも適当に済ませている。夕飯の残りをつまんだり、出勤がてらコンビニに寄ったり。今日は時間があるので、冷蔵庫を覗…
「僕、このでっかい栗が食べたい!」 「こら、まだ手を洗ってないでしょう。これからの季節はちゃんと、手洗いとうがいをしないとダメよ」 「ぐちゅぐちゅ、ぱー。おしまい」 「ふざけないの。お兄ちゃんはもうやったのよ?」 「ふー…