最終話 虹
6月のよく晴れた日、絵美子の結婚披露宴が盛大に開かれた。いつもメイクには気を遣っている絵美子だが、プロにメイクアップしてもらい、ウェディングドレスを身に纏った姿は、見る者を惹きつけるだけのパワーに溢れていた。 「おめでと…
6月のよく晴れた日、絵美子の結婚披露宴が盛大に開かれた。いつもメイクには気を遣っている絵美子だが、プロにメイクアップしてもらい、ウェディングドレスを身に纏った姿は、見る者を惹きつけるだけのパワーに溢れていた。 「おめでと…
想いが通じ合うということの、凄まじい自己肯定感は、同時に彼を不安にもさせた。自分はこのまま幸せになってもいいのだろうか? しかし、彼女は教えてくれた。共に歩もうと。共に、影を背負っていこうと。 解き放たれる時があるとした…
真一の自宅は、中野駅から15分ほど歩いたところにあった。木造モルタルのアパートの、102号室。駅までの道すがら、二人はコンビニに寄ってお菓子や飲み物を買った。それから、安全に結ばれるための道具も。これは桃香がこっそり買っ…
決して許さないで、そして忘れない。思い続けることが、彼にとっての償いなのかもしれない。 苛烈な過去を語ってなお、桃香は真一のことを受け入れた。そのことは、許しを意味するわけではない。それでいいのだ。それが、いいのだ。 今…
ふるーるの所長、三浦さんはこうなることすら全て見抜いていたのだろうか。 あの時、三浦さんは桃香にこう、問うていた。 「人を、さ。想う気持ちって大事だけど……」 「はい」 「人をありのままに受け止めるって、簡単じゃないよね…
江古田の喫茶店で、彼女は静かに涙を流しながら、彼の手を握っていた。彼女の精一杯の力で、握りしめていた。 彼の口から語られた話を、桃香ははじめはじっと聞いていた。しかし、話し終えた真一の様子が明らかにおかしいことに気づいた…
心に蓋をするのは、彼にとって簡単なことだった。級友の「事故死」すら、1ヶ月もすれば机の上の花瓶もなくなり、日常がだらしなくやってくる。 また、みんなが空気を読みあい、相互監視する日々がやってきた。人は忘れる生き物なのだろ…
祖父がそれを読んでいたのはなんとなく覚えている。中原中也の「山羊の歌」だと知るのは随分後のことだが、「サーカス」という詩の独特な表現が、妙に心に残った。 「ゆあーんゆよーん ゆやゆよん」。 再生されるのは、優しかった祖父…
考えるのが苦痛で、だから考えたくなくて、でも、考えずにいられない。 恋って、きっと、そういうものだ。 真一の前には今、横顔の女性が描かれている。 それは桃香の面影を写しているようで、しかしどこかに影がある。 彼の見る桃香…
桃香は両親からの仕送りで暮らしている。たまに体調がいい時にアルバイトをする程度で、すぐに不調になってしまうため、なかなか就職できないでいる。 彼女はいわゆる、お嬢様だ。桃香の父親は大企業で専務をしている。 厳しい父と、父…