第十三話 映画館

「観たかったんだ、『君の名は。』。みんなすごい良いよって言ってるから」 「まだ、上映してたんだね。よかった」 真一は財布を出そうとする桃香を制し、自分の財布から二人分のチケット代を出した。 「割引、使えるから」 と言って…

第十二話 女子会

「で、なんて呼び合ってるの?」 絵美子が問うも、桃香はスマホから目を離さずに(真一とのラインのやりとりを見ているのだろう)、 「え、フツーだよ? 名前で呼んでる」 「そ。良かったねぇ」 「まぁね〜」 ルンルンの桃香に、絵…

第十一話 おでこ

三浦さんはマイペースに、それでいて優しく桃香に話しかける。 「僕、自分のこと大好きなの。何でだと思う?」 「えっと……超能力が使えるからですか」 三浦さんはアッハッハ、と笑った。 「本当に、素直だねぇ。僕には超能力なんて…

第十話 おなじ色

応じたのは、垣内さんだった。車いすを軽快に転がしながらやってきて、 「こんにちは。安田は今ちょっと外にいて。御用ですか?」 「あ、はい。あ、いいえ」 「え?」 怪訝そうな顔をする垣内さん。当たり前だ。 桃香はモロゾフのク…

第九話 ふるーる

兵藤さんは真一を心配していた。あの日以来、どこか心ここにあらずといった感じで、仕事にも凡ミスが増えたからだ。 「あのさ、安田くん」 兵藤さんは真一の提出した書類を手にしながら、 「平成2016年って、ありえないでしょ。こ…

第八話 短気

桃香は真一の腕の中で深呼吸した。彼のブルゾンには少しだけ煙草のにおいが染みついているが、それすらも、今は心地よく感じられる。 真一はぎこちなく、しかし優しい手つきでゆっくりと桃香の頭を撫ぜる。 桃香は少しだけ驚いて、パッ…

第七話 つぶらな瞳

真一は一瞬戸惑ったが、持ち前の頭の回転の良さですぐに状況を飲み込み、 「大丈夫です。誰も襲ってはきませんよ」 桃香の背中にそっと手を添えた。 駅構内には相変わらず、運転再開の見込みがない旨のアナウンスが流れている。駅員に…

第六話 江古田

二人はしばし茫然としていたが、桃香が突然、 「ジェラート、溶けちゃう!」 と言って真一にカボチャ味とバニラ味を半ば押し付けるように渡した。 「私は洋ナシとチョコを担当します」 「え、え?」 「早く!」 二人は近くにあった…

第五話 ジェラート

桃香は人混みに堪えながら、懸命に真一を探した。本来なら都会の混雑は桃香にはしんどいはずだが、幸い『豊島ふれあい福祉祭』はそれほどひどい混み具合でなかったために、絵美子も大丈夫と踏んだのだろう。 喫煙所に行ってみたが、それ…

第四話 最悪

「こんにちはー! 『ピアサポートセンター・ふるーる』でーす! 手作りのストラップ、キーホルダー、カードケース、いかがですか~?」 ブースに絵美子の朗らかな声が響く。さすがは販売のプロだ。「ふるーる」のパンフレットを一読し…