15 終止符

あれからどれくらいの時間が経ったのか、そのこと自体を考えなくなっていた。 何日、何ヶ月、いや何年経ったのだろう。僕が「あの日」のことについて思考を至らせたのは、その年の年末(とされる時期)の寒い日に、ゼロイチが編み物の編…

14 因子

動機など、どうでもよかった。ただ僕たちは、目的を定めず生きることを目的とし、いずれ訪れる「死」に焦がれて、自らそれを手繰り寄せることだけを希求しているのだから。 ノイはあれ以来、鳴き声を発さなくなった。アオは心配して餌を…

13 卵

厄介なことになった。リョクウを解毒した際にミズの血液を大量に摂取したアオに、不要な感情が芽生えてしまったのだ。 不要な感情、それはいわゆる、恋愛感情というやつだ。 ミズは相変わらず平然と下着姿、ときに全裸で自由に読書など…

12 無意味

ゼロイチは、アオにされるがまま何度もしたたかに体を浴室の壁面に打ち付けられていた。背中の羽が何本も無残に散って、その場の空気を乱すようにふわりふわりと待っている。 「やめるんだ、アオ」 僕の制止に対し、アオはぎろりとこち…

11 雨

この世界で認識可能な事象のすべては表裏一体でありシンメトリであると、僕は自分にとっては話すまでもないことを3人に伝えた。 ミズが「じゃあ認識できないものは当てはまらないのね」などと的外れなことを言うので、僕は「認識の可能…

10 鎖

僕の眼球には明け透けな青空が映し出されている。昔、宇宙飛行士と呼ばれたとある女性はこう言ったらしい。 「地球は、青かった」 と。 けれども、今日が偶然そうであっただけで、人類史末期に人間たちが縋ったあらゆる歪んだエネルギ…

9 遺伝子

アオは慌てて懐からペンライトを取り出し、ほうぼうに散ったノイの残骸たちに照射する。 「ノイ……ノイ!」 アオの呼びかけに応えるように、青白いひかりを浴びた肉塊たちがいっせいに蠢きだす。 「アオは、ノイのことが好きなんだね…

8 名前

黒く無機質なその機械が数台で4人を取り囲む。僕は喉が張り裂けそうな緊張を覚えたが、それをすぐにほどいてくれたのはミズのこんな一言だった。 「無礼者。機械の分際で。去りなさい」 すると数台の機械たちは電子音を交わしあい、し…

7 おむすび

アオが「工場」で見聞したことを話すのは、ゼロイチをひどく傷つけるだろうと思った。しかし、いつまでも隠しておくのも違うと僕は感じていた。 「つまんないと思った」 アオの感想は以上だ。けれどただ「つまらない」のではなく、アオ…

6 コロッケ

皮をむいたじゃがいもを鍋に入れてひたひたの水を加えてゆでる。じゃがいもが竹串がスッと通る位になったらゆで汁を捨て、火にかけて水分を飛ばす。 その後じゃがいもはアツアツの状態でマッシャーでつぶす。フライパンにバターを弱火で…