第十九話 自爆
「真弓ちゃん、じゃあさっきのパートをもう一回いこっか」 真弓が中野のボイストレーニングを受け始めて三か月。季節はすっかり夏になっていた。半袖の真弓は元気よく『アリスの栞』を練習している。ハルコのギターに涼介のパーカッショ…
「真弓ちゃん、じゃあさっきのパートをもう一回いこっか」 真弓が中野のボイストレーニングを受け始めて三か月。季節はすっかり夏になっていた。半袖の真弓は元気よく『アリスの栞』を練習している。ハルコのギターに涼介のパーカッショ…
晴れて(?)bookmarkerのメンバーとなった真弓は、そのことを早速香織に報告した。 「すごいじゃん。学生サークルじゃなくて、いきなりライブとか」 「まぁね。なりゆき、っていうか」 「どんな?」 「えっと……」 まさ…
彰さん、私と名前の響きが似ていますね。これもご縁と感じています。そんなことをここにしたためても、あなたへの想いが募るばかりでつらいのです。私は元気です。本当ですよ。 庭に植えたラナンキュラスが咲きました。あなたが教えてく…
「これは……」 真弓の問いに、中野は意を決して答えた。 「僕の祖母だよ。『秋子』さんだ」 そう答えた。真弓は驚きを隠せなかった。 「私に、そっくり……」 「だからたよ」 「え?」 中野は、もがく彰の方を直視する。 「君を…
中野は驚いて、また内心焦ってもいた。彰のこんな姿を見られたら、きっと真弓は失望する。そして『アリスの栞』を辞めてしまう。そんなことを考えたからだ。 だから、至って平静を装って、中野は真弓に言った。 「真弓ちゃん。今日はど…
「彰、大丈夫か」 中野は彰を落ち着かせようと静かに声をかける。涼介は驚いて、「何か、あったのか?」と言うが、しかしなおも彰は取り乱して、いつもよりも低い声で、「春の日に、薄桃色の女が一人、此岸で照れた顔して鼠を屠る……」…
『アリスの栞』がある街にある地名、旭町と暁町。ここが朝焼けと夜明けをそれぞれ司っているという伝説は、細々とではあるが若い世代にも受け継がれている。 夜が明ける頃、ハルコは畏まった表情で、旭町のとある神社に参詣に来ていた。…
中野は、真弓に優しく語りかけた。 「真弓ちゃんさ」 「はい」 「恋、してるんだね」 「へっ!?」 意外な言葉に、真弓は首を横にぶんぶんと振る。追い討ちをかけるように、その横で腕組みをしていた彰が、 「典型的な恋煩いだな」…
学生の本分は勉強だというが、授業を受けても、レポートを書いていても、あの日以来、真弓はどこかうわの空で過ごしていた。この日も昼休みに学食でラーメンを食べていたのだが、すっかり麺がのびてしまっている。 「大丈夫? 風邪でも…
真弓は階段を駆け下りると、中野に向かってこう言った。 「bookmakerのCDとかって、ありますか」 中野は背を向けたまま、 「あるよ。少し高いところにあるから、脚立を使わなきゃだけど」 そう返答したので、真弓はバック…