PHRASE7 忘れてください
ナイフを、持っていた? 「まさか」 征二の兄、俊一は直感した。 「あれ、よく見るとお兄ちゃんじゃないね。でも、そっくり」 夏江は俊一に歩み寄ると、 「ねぇ、お兄ちゃんのお友達?」 「夏江、失礼でしょ、いきなり……すみませ…
ナイフを、持っていた? 「まさか」 征二の兄、俊一は直感した。 「あれ、よく見るとお兄ちゃんじゃないね。でも、そっくり」 夏江は俊一に歩み寄ると、 「ねぇ、お兄ちゃんのお友達?」 「夏江、失礼でしょ、いきなり……すみませ…
数百年前の予言者の偉大なる予言があっさり外れて、世界に「新世紀」が訪れてから数年。だが、時代錯誤な妄想は日常に潜んでいた。 真っ赤な眼をした天使達が街に降りてくる。羽根をばたつかせながら、笑い声をあげながらやってくる。昆…
ユイは警察官二人に抱きかかえられるようにして、病院に現れた。『工藤征二 殿』と書かれた札の部屋の前で、立ち止まった。廊下に、見覚えのない人影がまばらにある。その中の一つがこちらに近づいてきて言った。 「佐々木さん、ですね…
ユイはいてもたってもいられなくなり、傘を2本持って外へ出た。征二を迎えに行こう。どこに行ったかはわからない。が、じっとしていると先ほどの恐怖――そう、恐怖だ。恋人に植え付けられた恐怖心が暴れ出して、征二への気持ちにヒビが…
雨が降り出した。空はどんよりと、朝だというのに薄暗い。ユイは地面に散らばったビーズをかき集め、エプロンのポケットにつめた。カンカン、と無機質な音を立てて階段を登って部屋に入ると、アパートの狭いリビングに座った。コーヒーは…
ユイは力を振り絞って征二の腕から逃れようとした。しかし、もがけばもがくほど、征二のユイを抱きしめる力が強くなる。 「苦しいよ、征二、離して」 「ユイ、聞いてくれ、俺は――」 「離して!」 ユイは自分の肩に絡められた征二の…
工藤征二は中学時代から陸上を始め、以来ずっと中距離ランナーだった。中距離は、短距離の瞬発力と長距離の持久力が必要とされるハードな種目である。征二は決して運動神経のよい方ではなかったが、父譲りの努力家の血が彼の才能を伸ばし…
「あ、ああ――……」 彼の意識が揺らぐ。認識する現実が、彼を嘲りだす。 世界に刃を向けられ、彼は、日常から堕ちる。 どこかの世界の密やかな妄想 ただ、そこに居るものが、在るものが、彼にとっての揺るぎない真実。たとえそれが…