第十五話 横顔
考えるのが苦痛で、だから考えたくなくて、でも、考えずにいられない。 恋って、きっと、そういうものだ。 真一の前には今、横顔の女性が描かれている。 それは桃香の面影を写しているようで、しかしどこかに影がある。 彼の見る桃香…
考えるのが苦痛で、だから考えたくなくて、でも、考えずにいられない。 恋って、きっと、そういうものだ。 真一の前には今、横顔の女性が描かれている。 それは桃香の面影を写しているようで、しかしどこかに影がある。 彼の見る桃香…
桃香は両親からの仕送りで暮らしている。たまに体調がいい時にアルバイトをする程度で、すぐに不調になってしまうため、なかなか就職できないでいる。 彼女はいわゆる、お嬢様だ。桃香の父親は大企業で専務をしている。 厳しい父と、父…
「観たかったんだ、『君の名は。』。みんなすごい良いよって言ってるから」 「まだ、上映してたんだね。よかった」 真一は財布を出そうとする桃香を制し、自分の財布から二人分のチケット代を出した。 「割引、使えるから」 と言って…
「で、なんて呼び合ってるの?」 絵美子が問うも、桃香はスマホから目を離さずに(真一とのラインのやりとりを見ているのだろう)、 「え、フツーだよ? 名前で呼んでる」 「そ。良かったねぇ」 「まぁね〜」 ルンルンの桃香に、絵…
三浦さんはマイペースに、それでいて優しく桃香に話しかける。 「僕、自分のこと大好きなの。何でだと思う?」 「えっと……超能力が使えるからですか」 三浦さんはアッハッハ、と笑った。 「本当に、素直だねぇ。僕には超能力なんて…
応じたのは、垣内さんだった。車いすを軽快に転がしながらやってきて、 「こんにちは。安田は今ちょっと外にいて。御用ですか?」 「あ、はい。あ、いいえ」 「え?」 怪訝そうな顔をする垣内さん。当たり前だ。 桃香はモロゾフのク…
兵藤さんは真一を心配していた。あの日以来、どこか心ここにあらずといった感じで、仕事にも凡ミスが増えたからだ。 「あのさ、安田くん」 兵藤さんは真一の提出した書類を手にしながら、 「平成2016年って、ありえないでしょ。こ…
桃香は真一の腕の中で深呼吸した。彼のブルゾンには少しだけ煙草のにおいが染みついているが、それすらも、今は心地よく感じられる。 真一はぎこちなく、しかし優しい手つきでゆっくりと桃香の頭を撫ぜる。 桃香は少しだけ驚いて、パッ…
真一は一瞬戸惑ったが、持ち前の頭の回転の良さですぐに状況を飲み込み、 「大丈夫です。誰も襲ってはきませんよ」 桃香の背中にそっと手を添えた。 駅構内には相変わらず、運転再開の見込みがない旨のアナウンスが流れている。駅員に…
二人はしばし茫然としていたが、桃香が突然、 「ジェラート、溶けちゃう!」 と言って真一にカボチャ味とバニラ味を半ば押し付けるように渡した。 「私は洋ナシとチョコを担当します」 「え、え?」 「早く!」 二人は近くにあった…