第五話 ジェラート

桃香は人混みに堪えながら、懸命に真一を探した。本来なら都会の混雑は桃香にはしんどいはずだが、幸い『豊島ふれあい福祉祭』はそれほどひどい混み具合でなかったために、絵美子も大丈夫と踏んだのだろう。 喫煙所に行ってみたが、それ…

第四話 最悪

「こんにちはー! 『ピアサポートセンター・ふるーる』でーす! 手作りのストラップ、キーホルダー、カードケース、いかがですか~?」 ブースに絵美子の朗らかな声が響く。さすがは販売のプロだ。「ふるーる」のパンフレットを一読し…

第三話 万引き

絵美子が怪訝そうに桃香を見る。身動きしないと思いきや、桃香は突然その場から速足で離れだした。 「ちょっと、桃香!」 桃香は跳ね上がる鼓動をどうにかしたくて、しかしどうしようもなくて、ひたすらあの場から逃れることを考えてい…

第二話 キーホルダー

思い立ったが吉日。絵美子にはあきれられてしまいそうだ。しかし桃香の足は迷うことなく本屋へ向かっていた。本棚を探しても、中原中也は見当たらない。流行りのコミックのコーナーは広いのに、詩歌のコーナーなんてオマケ程度にしかなく…

第一話 ピザトースト

プロローグ 激しい雨の後にこそ、空には虹がかかる。そして、見上げないと、その虹は見ることができない。 夜明け前が最も暗いと言われるように、光の射す一歩手前がきっと、最も苦しいときだったりする。それを抜けたからこそ、世界は…

最終話 コトノハ

季節は確実にめぐりゆき、桜の季節がやってきた。見事な桜並木がこの小さな街にも存在する。コトノハから歩いて10分もすればたどり着ける、多摩川支流の小さな川の河川敷だ。 「場所取り、ありがとうございます!」 元気いっぱいの美…

第二十話 バレンタインデー

バレンタインデー当日、美咲と透とで作ったチョコクッキーが完売して、プレーンも残り一袋となった夕方ごろ、コトノハに郵便配達の人がやってきて、小包を届けてくれた。 「イタリアからです」 差出人欄には、「Yoko Kuromi…

第十九話 できるよ

真冬の一大イベントといえば、バレンタインデーだろう。コトノハでも美咲の提案でチョコクッキーを置いたところ、若い女性を中心に売れ行きは好調だった。 クッキーを焼くのが美咲。そしてリボンをかけたり値札を張ったりするラッピング…

第十八話 もらい泣き

美咲は夜空を見上げて、ふっと白い息を吐いた。 「笑顔でいるとね、強くはなれないかもしれないけど、自分のことをもっと好きになれる気がするんです」 点灯した公園の街灯の光が、美咲と透、そしてマグを穏やかに照らしている。 「沢…

第十七話 許しはしない

透の問いに、美咲はにっこりと微笑んで答えた。 「私は笑っていたいんです。どんなときも。私の笑顔で他の誰かが笑顔になってくれたら、とても嬉しいから」 「悲しいときもですか」 「えっ」 「悲しいときも、美咲さんはそうやって笑…