第六話 許可をください
香月は驚きの表情を全く隠すことなく、透の隣にすとんと腰を下ろした。 「ねえ、覚えてないかな? 私、第八中学校で一緒だったミヤマカツキ」 透は突然そう言われて、ぎこちなく「はい?」と返すのが精いっぱいだった。香月は構わずに…
香月は驚きの表情を全く隠すことなく、透の隣にすとんと腰を下ろした。 「ねえ、覚えてないかな? 私、第八中学校で一緒だったミヤマカツキ」 透は突然そう言われて、ぎこちなく「はい?」と返すのが精いっぱいだった。香月は構わずに…
朋子はまだコーヒーにミルクを入れないと飲みきれない。神谷の淹れる一杯を求めてやってくるファンが多いことは知っているが、ブラックではどうしても苦みや酸味が強く感じられてしまうのだ。それをよく知っている神谷は、ランチの混雑時…
美咲が閉店の準備のために店先のランプを消そうと外に出ると、たったかと軽快な足取りでマグが帰ってきた。 「おかえり」 その言葉に呼応するようにマグが鳴いた直後、美咲は人影に気がついた。 「すみません、今日はもう閉店時間で……
それから数日後、コトノハの店内最奥のテーブルにホームセンターで買ってきたベッド用の天蓋が設置された。ここで魔女・ヨーコがオーストリアをはじめとする欧州諸国から買い付けたグッズを売ることが決まってからというもの、美咲はもち…
美咲がじっとその名刺に釘付けになっていると、その女性は続けた。 「ここはガトーショコラが人気らしいわね」 「えっ」 「グルメサイトに載ってたのよ。でもまだお腹がそんなに空いていないから今度にしようとは思うんだけど」 「は…
プロローグ ごめんね。僕は、たった一言を伝えたかっただけだった。 世界で、ただ一人のきみに、心からの「おめでとう」を。 ごめんね。そんなちっぽけな願いすら、僕には叶えられなかった。 許してくれとは言わない。それでも、本当…
朝、目がさめるとリビングのほうから物音がしたので、美奈子は眠気をこらえてそちらに向かった。リビングでは買ったばかりの小さなテレビがついていて、それを食い入るように裕明が観ているのだった。 おはよう、と声をかけるより前に美…
木内が「白い部屋」の中央で腕組みして、「むーん」と何度もうなっている。岸井はそんな木内を「そんなに難しいことじゃないでしょ」と促すのだが、やはり木内は「むーん」と首を左右に傾げている。 「ピカチュウとピチューの違いがいま…
太陽が傾いてきたころになって、美奈子はようやく意識を取り戻した。 「気分はどうだい」 清潔な布で美奈子のひたいに浮かんだ汗をぬぐいながら、木内は問いかけた。 「……はい、大丈夫です」 小さく、しかしはっきりとした口調で美…
美奈子は異変に気付くと、すぐにベッドから身を起こした。身の危険を察知すると、「誰っ!」と声をあげたのだが、すぐに美奈子は絶句した。 美奈子にとって見たことのない男が、フォークを片手にこちらを凝視しているのだ。 「馬鹿にし…