第十五話 期待

「確かに、大橋夏菜子を埋めたのは僕だよ」 そう、でしょう? 「でも、彼女を殺しただなんて、僕は一言も言ってない」 !? 「大きな間違いがあるみたいだから、ちゃんと伝えるよ。地中にははるか太古からの記憶が眠っている。それを…

第十四話 定義

私たちは黙ったまま、スタバの一角に座っていた。ソイラテを一口飲み、ちらりと彼の顔を見る。想像してはいたが、やはり、いつも通りだ。それが、却って怖かった。 「あの、さ」 私はおずおずと言葉を発した。 「聞いた? ニュース」…

第十三話 身勝手

藤城先輩の『自殺』の悲しみもまた、あっけなく忘れ去られた。美恵といえばあれから少しナーバスになっていて、大学も休みがちになっている。 私は美恵を心配はしたが、しかし、そんな資格は自分にはない気もしていた。 夏休みが終わっ…

第十二話 サイコ野郎

「いい夜だね」 藤城先輩がひたひたと近づいてくる。私は後ずさった。 「星がこんなに綺麗なんだ。そんな恐い顔しないでよ」 ナイフを手元で弄びながら、ニコッと笑う。 「俺の顔に見事に泥を塗ってくれたね」 「何のことですか」 …

第十一話 ツユクサ

あれから、何事もなかったかのように、ペンションでの時間は流れた。 肝試しから帰ってきた一同は、好き勝手に部屋でどんちゃん騒ぎをし、その輪の中に美恵もいた。若干、自棄になっているようにも見えたが、そっとしておくことにした。…

第十話 最低

「美恵、どういうこと?」 「嫌だ、嫌だよこんなの! 智恵美、助けて!」 「落ち着いて。何があったの。話せたらでいいから教えて」 美恵は首を横にブンブンと振る。 目が血走っている、その尋常ではない様子に、私は何とか彼女をな…

第九話 肝試し

河口湖畔での合宿の夜といえば、お約束なのが肝試しだ。ペンションから歩いて少し行った湖の畔に、乙女の石像があるという。 食事を済ませた一同は、すっかり肝試しに行く気満々だ。 「その乙女の像の頭を撫でると、恋愛成就するんだっ…

第八話 塊肉

「そしていつまでも仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし」 読み終えると美恵は、絵本に次々と付箋を貼っていく。 真剣に児童文学を読んでいるのは美恵だけで、他のメンバーはとっくにパーティーモードだ。貸切とはいえ、少しはし…

第七話 ディアー

私たちはほぼ無言でマックの片隅に座っていた。アイスコーヒーを飲み終えた桐崎くんはぽつりと、 「噂なんて気にしないよ」 と言った。表情からは相変わらず、彼の心の中を察することはできない。 「人の噂も七十五日って言うでしょ。…

第六話 噂

「何者、か」 私の言葉を吟味するように彼は反芻した。 「さぁ、何なんだろうね」 「……ごめん」 「なんで謝るの」 「いや、なんとなく」 「智恵美は、『なんとなく』が多いよね」 「……」 桐崎くんは、私の、彼氏だ。 「ちょ…