「彼」について

あらすじ

悪夢をいざなう(元)精神科医、死体と会話する解剖医、人格がほつれ出した若き刑事、そして天使になってしまった「君」。

彼が、誰の笑顔も思い出せないのは何故だろう。

これは不条理が容赦なく降り注ぐ魔都市・東京で繰り広げられる、どこまでもくだらない舞台だ。

「決して、俺を、忘れるな」

彼が血とともに吐くその言葉を、しかし彼自身が誰よりも嘲っていることに、彼は気づいていない。信じたいのだ——愛とは、正義とは、無条件に肯定されるべきものであると。その手で、真に愛しい人の変わり果てた姿を抱きしめながらも、なお。

「愛の意味」と「正義の定義」を追い求め続けた、愚かな「彼」の顛末を話そうか。

主な登場人物

篠畑礼次郎しのはたれいじろう(53)
自殺教唆の罪で死刑判決を受けた元精神科医。魔都市・東京の都市伝説の一人

ミズ・解剖医(??)
東京の都市伝説の一人。否が応でも死者と会話できてしまう

若宮郁子わかみやいくこ(26)
刑事だった父親の遺志を継ぎ、篠畑の仕事上のパートナーとして奮闘する刑事

葉山大志はやまたいし(26)
新進気鋭のエリート刑事。実は極めて不安定な自我の持ち主

宝飯綾香ほいあやか(23)
過ぎ去りし雪の日に自殺した女性・宝飯玲子の妹

大竹幸彦おおたけゆきひこ(26)
葉山と同期の刑事

若宮恭介わかみやきょうすけ(享年38)
篠畑と「とある秘密」を共有し続けていたが、「不慮の事故」で命を落とした

「彼」
「伝染する意識体」として、東京を彷徨い続ける都市伝説


プロローグ(意味のない幕開け)

第一章  幻想即興曲

第二章 洗脳の方法

第三章 さようならだけはいわないで

第四章 その手から零れ落ちる羽

第五章 ミスがミズになる日

第六章 正義の定義

第七章 正しい紅茶の淹れ方

第八章 その面影

第九章 彼は気まぐれにキスをする

第十章 沈黙の詩

第十一章 因果

第十二章 素数

第十三章 決意

最終章 誕生