中編小説

  1. 空の恋人
  2. ゆく夏に穿つ
  3. しあわせのかたち
  4. Rainbow after the tempest
  5. コトノハ
  6. アリスの栞
  7. 砂時計が止まる瞬間、雨がやんだ
  8. 箱庭から歌が聞こえる(砂時計が止まる瞬間、雨がやんだ 続編)
  9. 面影橋

1.空の恋人

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コミュニティカフェ「しえる」は、あらゆる傷を携えて生きる人々の居場所として住宅街にひっそり存在している。

不登校から引きこもりになった少女、現実からときどき意識がずれてしまう青年、伴侶を亡くして生きがいを見失った女性……。

「しえる」では、誰もが安心して美味しい食事やお茶を楽しむことができる。なぜなら、どんな人も決して一方的に評価をされることがないからだ。無気力な日々を送っていた朝香もまた、「しえる」との出会いによって一歩踏み出したいと願うようになる。

――けれどすべては、「凪」が起きた後の出来事。だから「彼」は今日も夕焼けを見送る。その胸に、途方もない喪失感を抱きながら。


2.ゆく夏に穿つ

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奥多摩の柔らかな自然に溶け込むようにたたずむ「奥多摩よつばクリニック」には、他の患者やスタッフには知られていない空間が存在する。

「白い部屋」でひっそりと暮らす青年、裕明。彼は解離性同一性障害(DID)であり、「過去と秘密」を抱えながら生きている。

何も変わらない日々を望み続け、それが叶ったところで少しも満たされることのない人生。彼はかたくなに心を閉ざすことで、そんな自分を懸命に守ってきた。

ある日、クリニックに通院している少女、美奈子が「白い部屋」へ足を踏み入れてしまう。

「運命」などと呼ぶには、あまりにもあっけない二人の出逢い。それでも、二人は信じたい。それは間違いなく、お互いの抱く時計と傷とが、静かに交錯し始めた瞬間であったと。


3.しあわせのかたち

(「ゆく夏に穿つ」の続編的な)

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解離性同一性障害(DID)の青年、裕明はパートナーの美奈子と暮らしている。

ある日、二人の住む街で少女が連続して惨殺される事件が起きた。

その事件にどうも、裕明の別人格が関与しているらしくて――

これは、ときどき泣き虫になってしまう彼女と、ときどき派手に壊れてしまう彼の、穏やかな生活の風景画。


4.Rainbow after the tempest

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精神障害者となってはじめて人を愛する恐怖と優しさを知った彼と、泣き虫でワガママで恋愛体質な彼女のおはなし。

激しい嵐の後にこそ、空にきれいな虹がかかるよね。

どんな過去があってもそこから自由になっていいし、どんな深い傷があってもそれらは癒されるために在るのだと、「きみ」と出逢ってやっと気づいた。

幻聴は今も聞こえるし、意識の侵食だってしょっちゅうだ。

そんな僕でも、生きてゆけると確信できたのは、きみと二人で虹を一緒に見上げたから。

「きっと、大丈夫」。


5.コトノハ

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東京の西の街にある喫茶「コトノハ」。ここには人生に少し疲れてしまった人たちが、安らぎを求めて集う場所。

ある日、コトノハに「魔女」を自称する女性が現れたことから、それまでの日常が徐々に変化しはじめる。

一方、数年ぶりに精神科病院からの退院が叶った透。しかし彼の目の前には、諦観と絶望しか転がっていなかった。

そんな彼のもとに、どこか生意気な三毛猫がひょっこり現れる。この出会いがきっかけで、彼の世界は、少しずつだが色彩を取り戻していく。


6.アリスの栞

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「出会った彼の秘密を知って、私は恋に落ちました。あと、脚立からも落ちました。」

何をしたいのかわからないまま青春を過ごす真弓がなんとなく出会った、とあるブックカフェ。

そのマスター、中野はもう一つの顔としてバンドのベーシストをつとめている。そのブックカフェの片隅には、いつも不思議な青年がいるのだ……。

夢って、持たなきゃいけませんか。

青っぽい葛藤から逃げたって、刻々と青春は過ぎていってしまう。そんなことはわかってる。でも、だからって、いつも前を向くのを強要されるって、ちょっとしんどい。

そんな折、真弓が出会ったのは伝説のアコースティックバンド「ワンダーワールドメーカー」の音楽。

「なんとなく」の日々が、「ワンダー」に変わっていく。それは、ただ口を開けて待っているのではなく、「わくわく」を燃料に自分から動くことで始まる。

真弓の青春もまた、ワンダーな時間になりそうだ。


7.砂時計

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「僕とユイは、5月のバラに祝福されて結婚式を挙げました」

――ある青年の苛烈な妄想と、彼に寄り添う彼女の決意を裁くかのように、今日もこの街には雨が降る。

「君を傷つけるものは皆、殺してやる」。

それでも彼女は、彼を愛せるだろうか。


8.箱庭から歌が聞こえる

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都内某精神科病棟の日常。

彼はその場所を、「箱庭」と名付けた。

今日もまた、箱庭で繰り広げられるいろいろな出来事。

彼は、決してそれらから目を逸らすことはない。

ただその場に佇み、時おり混ざる幻想と遊ぶ。

「箱庭から歌が聞こえる」

それは妄言か、あるいは悲鳴か、はたまた祈りなのか。

そんなことはしかし、彼にとってはどうでもいいこと。

人々の叫びは消えることはないから、彼はひたすらそれをスケッチする――いつの日か「彼女」へ届けるメッセージとして。


9.面影橋

指先から体が徐々に黒蝶に変化する奇病に冒された少女・麻衣子は、居場所を失い精神科病棟で暮らしている。

同じくそこに入院しているのは、詩歌の形で不随意の予言を行う文学青年。

「過去」という亡霊はどこまでも付き纏い、前に進もうとする者たちの邪魔をする。

「私の居場所は、何処ですか?」

その問いに対する答えが見つかるとき、「三つの終焉」が不可避であることを、黒蝶だけは知っていたのだろう。