- 空の恋人
- ゆく夏に穿つ
- しあわせのかたち
- Rainbow after the tempest
- コトノハ
- アリスの栞
- 砂時計が止まる瞬間、雨がやんだ
- 箱庭から歌が聞こえる(砂時計が止まる瞬間、雨がやんだ 続編)
- 面影橋
1.空の恋人
不登校から引きこもりになった少女、現実からときどき意識がずれてしまう青年、伴侶を亡くして生きがいを見失った女性……。
「しえる」では、誰もが安心して美味しい食事やお茶を楽しむことができる。なぜなら、どんな人も決して一方的に評価をされることがないからだ。無気力な日々を送っていた朝香もまた、「しえる」との出会いによって一歩踏み出したいと願うようになる。
――けれどすべては、「凪」が起きた後の出来事。だから「彼」は今日も夕焼けを見送る。その胸に、途方もない喪失感を抱きながら。
2.ゆく夏に穿つ
「白い部屋」でひっそりと暮らす青年、裕明。彼は解離性同一性障害(DID)であり、「過去と秘密」を抱えながら生きている。
何も変わらない日々を望み続け、それが叶ったところで少しも満たされることのない人生。彼はかたくなに心を閉ざすことで、そんな自分を懸命に守ってきた。
ある日、クリニックに通院している少女、美奈子が「白い部屋」へ足を踏み入れてしまう。
「運命」などと呼ぶには、あまりにもあっけない二人の出逢い。それでも、二人は信じたい。それは間違いなく、お互いの抱く時計と傷とが、静かに交錯し始めた瞬間であったと。
3.しあわせのかたち
(「ゆく夏に穿つ」の続編的な)
解離性同一性障害(DID)の青年、裕明はパートナーの美奈子と暮らしている。
ある日、二人の住む街で少女が連続して惨殺される事件が起きた。
その事件にどうも、裕明の別人格が関与しているらしくて――
これは、ときどき泣き虫になってしまう彼女と、ときどき派手に壊れてしまう彼の、穏やかな生活の風景画。
4.Rainbow after the tempest
激しい嵐の後にこそ、空にきれいな虹がかかるよね。
どんな過去があってもそこから自由になっていいし、どんな深い傷があってもそれらは癒されるために在るのだと、「きみ」と出逢ってやっと気づいた。
幻聴は今も聞こえるし、意識の侵食だってしょっちゅうだ。
そんな僕でも、生きてゆけると確信できたのは、きみと二人で虹を一緒に見上げたから。
「きっと、大丈夫」。
5.コトノハ
ある日、コトノハに「魔女」を自称する女性が現れたことから、それまでの日常が徐々に変化しはじめる。
一方、数年ぶりに精神科病院からの退院が叶った透。しかし彼の目の前には、諦観と絶望しか転がっていなかった。
そんな彼のもとに、どこか生意気な三毛猫がひょっこり現れる。この出会いがきっかけで、彼の世界は、少しずつだが色彩を取り戻していく。
6.アリスの栞
何をしたいのかわからないまま青春を過ごす真弓がなんとなく出会った、とあるブックカフェ。
そのマスター、中野はもう一つの顔としてバンドのベーシストをつとめている。そのブックカフェの片隅には、いつも不思議な青年がいるのだ……。
夢って、持たなきゃいけませんか。
青っぽい葛藤から逃げたって、刻々と青春は過ぎていってしまう。そんなことはわかってる。でも、だからって、いつも前を向くのを強要されるって、ちょっとしんどい。
そんな折、真弓が出会ったのは伝説のアコースティックバンド「ワンダーワールドメーカー」の音楽。
「なんとなく」の日々が、「ワンダー」に変わっていく。それは、ただ口を開けて待っているのではなく、「わくわく」を燃料に自分から動くことで始まる。
真弓の青春もまた、ワンダーな時間になりそうだ。
7.砂時計
「僕とユイは、5月のバラに祝福されて結婚式を挙げました」
――ある青年の苛烈な妄想と、彼に寄り添う彼女の決意を裁くかのように、今日もこの街には雨が降る。
「君を傷つけるものは皆、殺してやる」。
それでも彼女は、彼を愛せるだろうか。
8.箱庭から歌が聞こえる
都内某精神科病棟の日常。
彼はその場所を、「箱庭」と名付けた。
今日もまた、箱庭で繰り広げられるいろいろな出来事。
彼は、決してそれらから目を逸らすことはない。
ただその場に佇み、時おり混ざる幻想と遊ぶ。
「箱庭から歌が聞こえる」
それは妄言か、あるいは悲鳴か、はたまた祈りなのか。
そんなことはしかし、彼にとってはどうでもいいこと。
人々の叫びは消えることはないから、彼はひたすらそれをスケッチする――いつの日か「彼女」へ届けるメッセージとして。