短編小説

  1. 光の花束
  2. 星見ヶ丘
  3. 桐崎くん
  4. 浜辺で花火
  5. デート
  6. つちとそら
  7. 純愛とか笑わせんな(「つちとそら」パラレルワールド)
  8. さいはてキッチン

1.光の花束

光の花束 イメージ
精神科医の森下芳之は、ある日の夜勤明けに若き男性患者・篠崎隼人と出会う。隼人の口から繰り返し漏れる「ランパトカナル」という謎の言葉。

その意味がほどかれて「彼ら」の過去が暴かれるとき、二人の間に不可思議な絆が訪れる。それを、いったい誰に咎めることができるだろう。

人が人を「救う」こととは果たしてどういうことなのか。「救い」が起こるとき、いったい誰が「救われる」のか。

(命を無条件に肯定することがなぜこんなにも困難なのだろうか。)問いかけはただ虚しく、「彼」の抱く傷だけがその答えを知っている。


2.星見ヶ丘

星見ヶ丘
新米カウンセラーの佳恵は、ある日意外な場所で初恋の人に再会する。彼は患者として、精神科病院に入院していたのだった。

戻らない青春の日々。決して戻らないからこそ、愛しい日々。

約束の場所「星見ヶ丘」で、きっと、星になった「あの子」が待っている。

「君に見せたい、景色があるんだ」 。

果たせなかった「約束」という名の痛みとともに、それでも人は生きていく。


3.桐崎くん

桐崎くん イメージ
私が恋したのは「切り裂きくん」こと、桐崎くん、でした。

友人の死をきっかけに結ばれてしまった「私」と「彼」の、儚くて、血なまぐさくて、やっぱり甘酸っぱい青春。

「どうか、ロマンを否定しないでほしい」

きみの願いとは、つまり、すべてがやがて地球に還る、そのプロセスをそばで見届けてほしいということ。

私の友人である夏菜子は、今この瞬間も校舎の裏山に埋められたまま、腐敗を続けている。ロマンだなんてきみは言うけれど、私は、それを肯定していいんだろうか。

……っていうか、なんでそんな悲しそうな顔をするの。殺人鬼なら殺人鬼らしく、下品に笑ったりしてよ!


4.浜辺で花火

浜辺で花火 の表紙
社会福祉学を専攻する平凡な女子大生の聡美は、ある日のアルバイト中に同期生の聖也からこんなことを告げられる。

「今日、この店が閉店したら俺、死んでもいいかな?」

突然の言葉に面食らった聡美だったが、戸惑いつつも彼に一つの提案をした。

「じゃあさ、死ぬ前にひとつ、楽しいことをしようよ」

浜辺で花火をするまでは、死なない。

そんな儚い約束をした、私と彼の、どこにでもありそうな、唯一無二の青春の1ページ。


5.デート

デートのイメージ
死にたがりの「彼」と、それを阻止する「私」の逢瀬。ちっとも甘くなんかない、それはデートという名の「勝負」。

決して私は負けられない。

彼が「決断」してしまうのを、それこそ「必死に」止めなければならないからだ。

ふざけんな、絶対に死なせるもんかよ。

今日もゴングが鳴る。

上等だ、かかってこい。


6.つちとそら

1つちとそら イメージ
古城はるかは姉と二人暮らし。慎ましいながらも穏やかな日々を送るパティシエ志望の少女だ。

はるかは、とある街で起きた傷害事件をきっかけにして、殺人願望を間接的に満たすために刑事となった男に命を狙われることになる。

はるかの姉、るいが行きつけにしている美容室「テラエシエル」の美容師、秋川浩輔は思わぬ形で事件に巻き込まれていく。

しかし、何が起きたとしても、そのすべてがどこか他人事のようにしか浩輔には感じられない。なぜなら浩輔の心は、すでに滅んだ星の光を、今でも求めているから。


7.純愛とか笑わせんな

(「つちとそら」パラレルワールド)

純愛とか笑わせんな イメージ
警視庁捜査一課の若手刑事、葉山秋広にはかなり異様な性癖がある。

それを知っていながら、警視庁随一のじゃじゃ馬事務員、若宮は葉山にすっかり惚れ込んでいるのだ。

若宮はいう。

「どうせ殺すなら、私にしてくださいね」。

ヤバすぎる性癖を持つ想い人を振り向かせるために、若宮の無茶苦茶な奮闘がはじまる。


8.さいはてキッチン

さいはてキッチン イメージ

かつてこの地に暮らした人々が「誕生」と呼んだもの。

青空など、自由など、欲しくないと悲鳴をあげる小鳥。

名前が識別子でしかないこの世界を、それでも僕は愛している。

僕はたった一人の全知無能な忘れ物として、無知全能な者たちの踊り狂う様を見て見ぬふりし続けて、そうしていつか来る「終わり」のときには、「きみ」に引導を渡してもらいたい。

おなかが空く。

どんな感傷に浸ったところで、命を奪って、僕らは生きながらえていく。

それを糾弾したり、笑われることすらなく、今日もこの地には、おかしな色彩の風が吹き抜けるだけだ。