短歌 誘蛾灯

1 見守っているとあなたは仰るがそれは見張りとどう違うのか 2 パレットに黒と白しかないなんてその身に巡る血を思い出せ 3 素数より美しいものを知らないこの人生は上々である 4 誘蛾灯ぜんぶ折ってもいいですか許可されなく…

まんまる

私は浮かんだことがある 心を逃した先に居た 完全な球体と一緒に 美化されがちな夏アルバムの 読み飛ばされる一ページに 名前を与えられることもなく 極彩色のクレヨンで塗り潰された ちゃちな汚れ 神さまのこと 打ち上げ花火の…

今日の短歌 見殺し

1 考えてしまうここまで生きるためお前わたしは何を見殺しにした 2 気にしない人の噂もゴシップも落ちゆく砂が止められたなら 3 来年も旅行をしようそのために貯金をしなきゃまずは点滴 4 猫は猫スマホを捨てることがもう半身…

今日の短歌 くるぶし

1 この下になにが埋まっていてもいい月下美人が無事に咲くなら 2 短冊に書いた願いは「わがままはわたしにだけ言え」というわがまま 3 花火背に少し浮き出た頬骨をなぞると髪をなぜてくるきみ 4 半額のシールを狙い手に取った…

今日の短歌 疑問符

1 目玉焼きなんて名前をつけるからこの箸だって凶器になるね 2 知らなくていいことばかり知りたいしゲリラ豪雨はやまなけりゃいい 3 直接の死因ばかりを知りたがるこの方々に殺された友 4 死者がみな土に還るというのなら地球…

短歌 戦っていた

1 種を吐くときの顔すら好きだからたぶん飽きてもまた風は吹く 2 蝉を見ろあいつらすぐに逝っちまう叫ばなければ生きてゆけます 3 気づいても言わないでおく傷ついたぶんだけ人が強くなること 4 この夏は地獄の蓋を開けたまま…

おともだち

カーテンでのみ仕切られた暗い部屋で、ある晩、ついに僕にお友達ができた。 彼はもじゃもじゃの金髪に赤い鼻、派手な水玉模様のサロペットに虹色のチョッキを着て黒い靴を履いていた。終始、楽しそうに笑顔を浮かべていた。 名前を知ら…

Drum ‘n’ Bass

「普遍的価値のある事象だけに意味があるだなんて、随分と陳腐な考えだね。別に、それが悪いとはいわない。ただ、神が何ゆえ、僕らに『痛み』を与えたかについて考えたことはあるかい? それは、僕らが生きているということを、他ならぬ…

事態

1 嘘でしょ、のあとに嘘だとわかったら嘘が嘘でよかったと嘘つく 2 バス停で行き先のないバスを待つ隣でオツベルが辞書を引く 3 鳥かごで意味を飼ってはいけないとつぶやいた人ちゃんとほどけた 4 階段を半音ずつ降りてくださ…

小夜風

地球儀を強く抱きしめて 失くした星だけを数えて から笑うあなたのことを 私はもう許せそうにない あなたを許せない私を あなたは許してしまう そうして無難至高にて 風を感じているフリと 生きている真似事とが 上手になってい…