青と素数

女が感傷に浸り

手首の傷跡をなぞる夜

素数を数えていた男は

ふうっと息を吐く

それがとても白かったものだから

すっかり冬ねとこぼしても

男はメルセンヌ数を逆さにして

ひたすら暗誦しているばかり

私は2よ。

孤独の素数。

誰とでも仲良くなれるのに、

誰からも求められないの。

貴方は3。

裏切りの素数。

自分は不要だと言いながら、

いるだけで分裂を証明する。

誰もかれもが素数なのに

どうして混ざり合う夢をみるの

それはきっと

勘違いと偶然の連鎖だけが

この惑星を廻しているからだわ

そんなことよりママの作ったシチューの味を

すっかり忘れてしまったよ

ねぇ優しくなれないのならせめて

割り切れないでほしかったな

貴方に捕まった素数たちが

ビチビチ音を立てている

次々に捕まっては

ビチビチ音を立てている

私は合わせ鏡の前で

確かな永遠を感じている

それは何色?

あおいろ、すなわち生命の反対色。

間違いない、

喜べ、テストなら満点だ、きっとママが褒めてくれるだろう!

(貴方は永遠になったのね)

青い男が歩いている

何度も振り返りながら

ぶるぶると震えながら

口から素数をこぼしながら

女に召抱えられながら

夜明けに届いた喪中はがきには

私の名前が載っており

2,3,5,7,11,13→密やか且つ緩やかな齟齬

私という素数は空間を侵してここに在る

やぁ今日もよく晴れた!

かわいい奴だなぁ、手首に巻いた

そのお気に入りは本当に素敵だ

よく見せてごらんなさい

この惑星のどこを探しても

割り切れるものなど落ちていないから

4,6,8,10,12,14→憐れむならばご自身を

青い男が立ち止まって

スラァと笑う

断絶と拒否の証拠として

素数は厳然と風に吹かれている