その日は漢字テストで
初めて100点をとった日で
ペシミストのお姉ちゃんが
仰々しく祝福してきた
100点なんてなかなかとれないよ
足の指でソナチネを弾くくらい
とってもすごいことなんだよ
海老反りをしながら
お姉ちゃんは
答案用紙の裏に
油性ペンでサインをした
せっかくの100点が
汚れた
あくる日はお姉ちゃんの結婚式
制服姿の僕は
嫌な汗をかいていた
新郎が破裂したらどうしよう
神父が寝返ったらどうしよう
指輪が骨だったらどうしよう
そんなことより
僕はもう二度と100点をとれないかもしれない!
母は鴨肉のローストを上から3ミリずつ
フォークで突き刺している
父はお辞儀の練習をしている
水飲み鳥みたいにカクカクしてる
角度が重要なのだそうだ……
そんなことより
僕の100点は今後どのような計画を立てて
如何なる戦略でもってとれば良い?
お姉ちゃんの手紙の朗読が始まった
列席者たちが爆笑爆笑
みんな笑顔で手を叩く
怖い
列席者の一人が
ケーキを喉に詰まらせて倒れ込んだ
すぐに救急車が呼ばれたけど
そいつは「聖者の行進」を鼻歌で
歌いながら搬送されていった
確かにクリームが甘過ぎたな
お姉ちゃんの背中に
蚊が止まっていた
この時期にしては珍しかったので
新郎新婦はそれを飼うという
気球を希求し帰厩した馬が
パッカラパッカラ笑い出す
そんなことより
そんなことより
僕の100点計画をば
完璧という不完全を俯瞰せよ
お姉ちゃんは何もかも失ったのだ
許せない
乾燥した間奏の感想を
述べる舌ならもう要らない
(思い出は美化され放題)
お姉ちゃん優しかったよね
とても賢い人だったよね
しかも思慮深かったよね
海老反りなんてしなかったよね
ピアノに足なんて乗せなかったよね
至って普通の女性だったよね