スマホを機種変したので
アドレス帳を整理しました
もう会わない名前たちを
一括で削除しました
未送信トレイに残っていた
あけっぴろげな想いの残滓を
建前と共に飲み干しました
取り返しのつかないことだけが
今も私に苦悩を強制します
どんなに傘を広げたところで
雨には抗えないように
もう大人になったので
卒業アルバムにしつこく居残る
私の下手な笑顔だけ潰しました
消せない歴史ごと修正テープを
横に一本強く引きました
どんなに傘を広げたところで
全然気分は晴れないけれど
みんな同じ服を着て
同じ空間で
同じタイミングで
同じ理由で
笑わなきゃいけなかったから
春は青くキラキラしてなんてなかった
むしろ鉄みたいなにおいがしました
何を犠牲にしてそこから逃れたのか
そんなことは忘れてしまったし
とりあえずその辺は掃除をして
私は生きてゆきます
余計なことは考えず
必要に迫られ他人を傷つけても
見ないフリが上手になったから
真実になんて今更興味はありません
大人ですから もう大人ですから
ハローが容易にグッバイに化けることに
心の底からホッとしたあの日のことは
脳梁にこびりついて離れないけれど
機種変したので もう機種変したので
なかったことにしてもいいですか
嘘は上手につくべきだと学びました
(先生、「正しさ」ってなんですか?)
何事も無難にこなす器用さのことです。
大人を騙せればなお可でしょう。
そんなこともわからないのですか?
少しは首に紐を括る練習をしなさい。
(では「生きる」ってなんですか?)
自分だけが幸せになれるように
多くの仮面の着脱方法を身につけて
加害者だと決してバレないように
被害者面を押し通すことです。
(虚しいのですが。)
そんなことは自分で考えなさい。
みんな忙しいんだから。
毎晩どんなに若い星が流れても
誰も見向きもしない東京の夜空に
ぽっかりと私を睨み続けるお月さま
みんな異口同音に
「きれい」「きれい」
言葉も容易く人を騙すね
目を閉じればいつでも再生される
モノクロームの笑顔たちは
ひたひた群生して視神経を侵し
私の自由に絡みついている
(でもそのうち一つくらいは
SOSでも出してただろうか?)
光まであともう少しなのに
腕を伸ばせば濡れるばかりだ
空は誰のためにも晴れない
どんなに傘を広げたところで
私の目の前には雨粒と虚しさが
容赦なく打ちつける
誰かを傷つけてしまった日々!
恐れと恥と己の弱さに
鉈を振り下ろしたい
「消えたい」なんて半端なことは
もはや思えないから
とにかく手応えがほしくて
鉈を振り下ろしたい
「何か」を感じてしまったら
それが終わりの始まりである
教科書にはボールドで
そう載っていたものだから
真面目さにしか縋れなかった私は
ピンクのラインマーカーを引いて
いつ自分に鉈を振り下ろすべきかを
ずっと考えていた
正しく生きることの虚しさについて
まだ答えを出せないまま
何かをたくさん犠牲にしたのに
その「何か」さえ思い出せないまま
いつ自分に鉈を振り下ろすべきかを
今でも考えている
私の青春は果たして
何年縛りなんだろう
とりあえず次にこの街に雨が降ったら
スマホを鉈で叩き割ろう
機種変したばかりだけれど