もし明日晴れたとしても
いつかの雨を私は忘れない
確かに明けない夜はないけれど
手が小さくてセーハがとれず
容易く絶望した夜のことも
日記には残っているから
正しい紅茶の淹れかたと
マイナーコードしか覚えられず
下手なギターを弾く手を
もう笑ってくれないんだ
何度もあることではないから
絶望してもいいでしょう
遺書くらい書かせてくれ
あらゆる形の暴力に
抗うように咲いてた
あの花を摘んだ感触を私は忘れない
右頬のあとに左頬を差し出した
本当の理由には触れたくない
本当のことなど知りたくない
容易く救うなそれは無理だ
通りすがりに勝ち上がるな
構うな疑うな気にかけるな
実況中継して殺気立つのはよせ
(ごめんね)
(ごめんね、もう降ってるや)
オルゴールすらラァラァ鳴いている
破れた蝶の舞い落ちる音を
幼な児が楽しげに反芻する午後です
私はすぐその横を胸ポケットに
ちゃちなナイフをしのばせて歩く
泣いているけど別にいいでしょう
日記にはさらにこうある
私の祈りが届かない日には
あなたに憂鬱と頭痛が訪れて
白い雲から光の階段が降りて
虹を呼ぶために大雨を降らすと
いっそ断罪を、だってさ
名前を与えられなかったことで
あの花は永遠になれたのかしら
名前を知られなかったからこそ
私のこの手が断絶を受容できる
痛いのは嫌だよ
ねだっても汚れは取れない
思い出についた手垢はこびりつき
満たしたばかりの容器は割れる
泥みたいな色の感情をどうにか
正当化したくて美化したくて
その後のことばかり考える
聞こえよがしにセーハを使うのも
新しい靴を欲しがるのも
花を植えるのも水をやるのも
蝶をセロテープで繋ぎ合わせるのも
こうして泣いているのも
あなたのためです
なんて
太陽が破裂してもとても言えない
そんなことよりスープができたよ
何も考えずに飲もう
何も議論せずに飲もう
しあわせなこととして
一緒にスープを飲もう