どこにもないはずの記憶がメモリーカードに保存されており私のいつかの嘆きも怠惰も独りよがりな悲喜劇もすべて残っておりました
誰からも忘れ去られた公園の錆びた遊具たちは互いにへつらうことをせず朽ちるのを黙って待ってただただ佇んでいます
私にはそれができない
呼吸とあいさつとお礼と愛が伝わればそれでいいのに私のこの口は次から次へああでもなければこうでもないと言葉を吐き出し唇濡らし眠る時だけ眠るのです
隣はなにをする人ぞ
どうでもいいことのはずが相手はなにを思おうぞどんな駆け引きをしようぞどうやって言い負かしてやろうとそんなことばかりにメモリーを費やしている犬に噛まれても
風は誰も素知らない
風は誰も誹らない
すべてが雑音として人々のつぶやきもまた
流されてゆけば良い
私もまたただの雑草としてその辺にそよいでいたい
全身に薫風を浴びられたらそれ以上は何も望まない
誰かに踏まれても構わないその人がまた歩き出せるのなら
メモリーカードがいっぱいになってどれか消去を求められたら迷うことなくこれまでの独りよがりな悲喜劇をフォーマットしてしまいたい
では、世の中のパソコンというパソコンを壊してまわりましょうこのメモリーカードが決して再生されないようすべてのカードのスロットルに痛覚神経を通しましょう痛みは何よりの抑圧ですから(このことをよくしるのが、えらいとされるひとびとです)
夜の公園でひとりで古いブランコを漕いでいましたら同じく迷子の野良猫がこちらを笑っておりました
私はついつい嬉しくなって気持ちを必死に噛み殺し明日もし目が覚めたら神様に二択を迫ろうと決意しました
この世界から光か私どちらかを跡形もなく消去ください
きっと神様はこうおっしゃいます
手っ取り早いのはメモリーカードをハンマーで割ってしまうこと
あなたが欲しいのは金のハンマー?それとも銀のマッシャー?
そしたら私はこう答えます
プラチナ製の痛覚神経をくださいと
明日吹く風にもし名前がなければそのときは『思い出』と名付けてください許さなくても別にいいので忘れさせてください
一刻も早く
何もかも
早く
(安心なんて、するなよ)