僕はボートを漕ぐ
他に誰もいない湖面に
流行らない一艘を浮かべ
僕はボートを漕ぐ
他に誰も見ていないから
好き放題に漕ぐ
湖面を波紋が支配する
僕のオールで起こしたそれは
いびつに整列をしていく
波紋はすぐに消えていく
何事もなかったんだと
僕は言い聞かせている
向かいに座る弱り果てたきみと
初めてのデートだ嬉しいよ
きみがあらんかぎりの力で
人さし指を天へと向けた
星でも見ろっていうのかい
その表情も素敵だね
僕がボートを漕ぐその行く先に
水音を立てて何かが落ちた
きみはずっと指を夜空へ向けて
ずっと僕に命令を下している
オールを止めるな、
上を向け、
鍵をよこせ、
チョコミントを好きになれ、
スピリットを盗作せよ、
オールを止めるな、
わかったわかった
あんまり欲張ると
こときれてしまうよ
僕がきみをなだめて見上げた空からは
星になり損ねた蛇たちが
ぼとぼとと降ってきて
湖面を雑に揺らしはじめた
新しい自分との出会い!
(今年は、閏年でしたね)
やり直せるんだ何度でも!
(取り返しのつかない事象しか)
孤独はタバコ15本分の毒らしいね、だから僕はカートンでセブンスターを買うのと引き換えに、当面の間の孤独を失ったのです
(では、蛇たちにはなんと?)
きみたちだって素晴らしいと!
/「平等」ってこういうとき使うんだ/top.html →もしかして「天国への高速エスカレーター」ではありませんか?
僕はボートを漕ぐ
力尽きたきみとの
最後のデートだ嬉しいな
暗い湖底に次々と沈んでゆく蛇たちの
あとを追ってきみは
僕はボートを漕ぐ
時折タバコをふかしながら
僕はボートを漕ぐ
悲しみなんてのはすでに絵画だ
塗り重ねれば売り物になる
僕はボートを漕いだあと
岸辺の蛇たちにタバコの火を
ぎっぎっとを押しつけながら
湖面をじっと見つめた
きみが心から笑ってくれたから
何にもなかったことになる
僕はボートを漕ぐ
何にも起きない湖面に繰り出し
きみと流行らないデートをする