私が飛散したあとの地に
曼珠沙華がわらわらと咲きました
笑顔の老婆がひとつ手折って
経験値、経験値と呟いて
一輪挿しに収めます
それを窓辺で見ていた少女が
ごくんと喉を鳴らしたなら
真っ赤な花弁たちは一斉に
彼女を撃ち抜くことでしょう
じきに清秋であるからして
誰かさんの眼窩に
ぶら下がった私は
ブランコ乗りみたいに
口笛を吹きながら
窓辺からこの世が
徐々にずれ てゆくのを
上機嫌で見ています
tu tu tu
虚しさ 誰も乗らない遊覧船
虚しさ 安い慰めのフレーズ
虚しさ 誰にも気づかれない闇
虚しさ つまりは割れた風船
曇天を仰げ!
老婆は慣れた手つきで
誰かさんを手折って
何事もなかったように
モノクロ写真の中に
赤色を添える
経験値、経験値と唱えながら
赤色を押し込める
かつての少女は飛散を選び
そのあとに生えた曼珠沙華
曇天にゆらら揺れている
老婆は偉大なるルーチンとして
それを残らず手折っては
部屋じゅうの一輪挿しの口を塞いでゆく
もう誰も喋らないで済むように
モノクロ写真で微笑むふたり
老婆が霧散したあとの地に
何かが咲いたとしても
それをあけすけな愛情でもって
手折る者はもういない
私は誰かさんの眼窩から飛び降りて
清秋の訪れを待つ
誰よりもなによりも
虚しいなにがしかとして
決して望まない結末を知る
目の前に咲き誇る曼珠沙華は
踏みつけた数だけ
経験値が上がるらしいけれど
勇者に指名されたところで
世界を救うつもりなどないので
薄暗い窓辺で彼女たちと
ゆらら揺れています